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朝、鍬を持って長靴を履き、畑に出る祖父。
道行く人に時折挨拶を返しながらも、手を止めず土を耕し続ける。
昼、薪が無くなったと言って鉈で木を割る祖父。
カーン カーン 心地良い音が響く。
夕方、風呂の湯を沸かすために薪をくべる祖父。
ゆらゆらと揺れる炎を見つめながら、黙々とくべていく。
夜、晩ご飯を食べながら、テレビを見て笑い、歌う祖父。
祖母が焼いた鯵の塩焼きを肴に、菊正宗を飲む。
眠る前、幼かった私の体を大きな掌でつかみ、軽々と持ち上げる祖父。
そのまま私の体を左右にゆらゆらと揺らし、大声で笑う。
黒くて分厚い掌からは、おがくずと土のにおいがした。
けして仲が良かったとは言えない。
しかし、私と祖父は確かに家族だった。
祖父を囲む輪から抜け出し、私はポケットに入っていたハンカチでそっと目元をぬぐった。
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