彼女にできること

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――指輪にそっと触れる。 すると菜々の頭の中に指輪の持ち主の思念が飛び込んでくる。 ここは「ゆめ屋」。 依頼人の未来を占ったり、『もう一度、逢いたい』という気持ちを叶えて差し上げる場所。 先ほどまで依頼人の指輪に触れていたのが、サイコメトリーの能力を使い特殊なサービスを提供する菜々(なな)である。 サイコメトリーとは、物体に触れることにより、その物体に残る人の残留思念を読み取る能力。 彼女は十歳の時、車に轢かれた猫の付けていた首輪に直接触れたことで、その能力に目覚めたという。 菜々が、ゆめ屋のオーナー『知世(ともよ)』と出逢ったのも、その出来事がきっかけとなった。 その頃の菜々は、まだ幼かった為、大人の助けを借りるという考えも浮かばず、道路脇で見つけた猫の亡骸を近くの公園に、どうにか一人で運ぼうとしていた。 普通の子供なら、回れ右してしまいそうな局面だが、菜々は共感力が人一倍強く、可哀想な猫をどうにかしてあげたいという気持ちの方が強かったようだ。 それでもやはり、猫の亡骸は痛ましく、彼女は直視できず、体の下にそっと手を入れて運んだ。
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