その六 無自覚なストーカー

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その六 無自覚なストーカー

 その日、私は香先輩と一緒に下校しました。  香先輩は私を家まで送ってくれました。  しかし、家に着いて私は驚きました。  なんと彼氏がいたんです。 「な、なんで」  驚いている私に香先輩が聞いて来ました。 「もう、あの彼氏と付き合う気はないのね」  私は強く頷きました。 「はい」 「断る自信、ある?」 「大丈夫です」  彼が私達を見つけ、言ってきました。 「雫、遅かったじゃないか」  私は彼を睨みつけて言いました。 「別にいいじゃない。それより、どうしてここに居るの」 「付き合ってるんだから、当然だろ」 「当然? 訳わかんないんだけど」 「雫の行動をちゃんと把握してなきゃ、彼氏失格だろ」 「なにそれ、気持ち悪い。それに私、もうあなたと付き合う気はないの。帰ってくれる」 「なぜだ。そこの女と出来てるからか」  こんどは香先輩が答えました。 「そう。私雫ちゃんと付き合う事にしたの。でも、どうしてそれ知ってるの?」 「自分の彼女の行動くらい把握してる。言っただろう」 「そうね、いつも覗いてるからね」 「覗きじゃない。監視だ」 「あら、白状しちゃったわね」  彼はそれを聞いて黙りました。  香先輩は続けました。 「ねえ、彼氏さん、いい加減諦めてくれる。あなたのカバンにカメラが仕込まれている事も、夜な夜なこの辺をうろついている事もこっちは知ってるのよ。雫ちゃんはそれを怖がってるの」 「それは違う。それは雫が心配だから……」  私はそれを遮る様に言いました。 「やめて。私に付きまとわないで。キモいから」  私は無意識に香先輩の腕にしがみつきました。  香先輩は彼に言いました。 「彼氏さん、わかった? これが雫ちゃんの答えよ。だから今すぐここから立ち去って。そして、今後一切雫ちゃんに近寄らないで」 「しかし……」  香先輩は彼の言葉を遮りました。 「三分以内に立ち去らない場合は警察呼ぶわよ。あなたストーカーだから」 「お、おれがストーカー?」 「あら、自覚してないの?あなたの行動、立派なストーカーよ」 「何、マジかよ」 「あなたの言う『監視』で、雫ちゃんはこうやって怯えてるのよ。これで立派に『つきまとい』は成立しているわ。今この場で警察を呼ぶには十分な理由よ」  少しの沈黙の後、彼はゆっくり答えました。 「わ、わかったよ」  意外とすんなりと聞き入れてくれました。  そして私に一言聞いて来ました。 「雫、おれはフラレたんだな」  私はゆっくりと、そして強く頷きました。 「そうか。じゃな」  そして彼氏は、薄暗い夕暮れ道をすごすごと帰って行きました。  西の空に少しだけオレンジ色が残っていました。
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