1人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
その三 先約なんです
「雫、遅くなって悪りぃ。行こうぜ」
私の後ろから彼氏が声を掛けてきました。
私はそれに対して答えるのを一瞬戸惑いましたが、香先輩はその間を逃さず、彼氏に言いました。
「あら、彼氏さん。初めまして。私鰻沢香といいます。申し訳ないんだけど、雫ちゃん今日は私と予定入れちゃってたのよ。ごめんね」
彼は明らかに不機嫌な顔になり、私に言いました。
「そんな事聞いてねえぞ。ホントかよ」
私は俯きながらも、小さく頷きました。
「う、うん。本当。言い忘れてたの。ごめんなさい」
彼は「チッ」と小さく舌打ちをしました。
「しゃあねえな。じゃ、帰るわ」
そして彼は一人で校門に向かって歩いて行きました。
「香先輩、有難うございます。じゃ、私もこれで失礼します」
と言って帰ろうとすると、香先輩は私を引き止めました。
「待って」
「はい?」
「ここで帰っても、何の解決にもならないわよ」
「え?」
「明日になったら、また彼氏に誘われちゃうのよ」
「あ……」
その通りです。
香先輩は続けます。
「あら、また憂鬱な顔になっちゃったわね。いいわ。私に付いてきて。時間大丈夫でしょ」
香先輩はそう言うと、再び学校の中に歩いて行きました。私もそれに付いて行きました。
校舎の一番奥の、あまり人が通らない階段を登り、香先輩が入ったのは、三階の空き教室でした。
そして、教室の扉を閉めて言いました。
「お話でもしましょう」
最初のコメントを投稿しよう!