その三 先約なんです

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その三 先約なんです

「雫、遅くなって悪りぃ。行こうぜ」  私の後ろから彼氏が声を掛けてきました。  私はそれに対して答えるのを一瞬戸惑いましたが、香先輩はその間を逃さず、彼氏に言いました。 「あら、彼氏さん。初めまして。私鰻沢香といいます。申し訳ないんだけど、雫ちゃん今日は私と予定入れちゃってたのよ。ごめんね」  彼は明らかに不機嫌な顔になり、私に言いました。 「そんな事聞いてねえぞ。ホントかよ」  私は俯きながらも、小さく頷きました。 「う、うん。本当。言い忘れてたの。ごめんなさい」  彼は「チッ」と小さく舌打ちをしました。 「しゃあねえな。じゃ、帰るわ」  そして彼は一人で校門に向かって歩いて行きました。 「香先輩、有難うございます。じゃ、私もこれで失礼します」  と言って帰ろうとすると、香先輩は私を引き止めました。 「待って」 「はい?」 「ここで帰っても、何の解決にもならないわよ」 「え?」 「明日になったら、また彼氏に誘われちゃうのよ」 「あ……」  その通りです。  香先輩は続けます。 「あら、また憂鬱な顔になっちゃったわね。いいわ。私に付いてきて。時間大丈夫でしょ」  香先輩はそう言うと、再び学校の中に歩いて行きました。私もそれに付いて行きました。  校舎の一番奥の、あまり人が通らない階段を登り、香先輩が入ったのは、三階の空き教室でした。  そして、教室の扉を閉めて言いました。 「お話でもしましょう」
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