その五 まさかのストーカー

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その五 まさかのストーカー

「か、香先輩。何をする気ですか」  香先輩は私に顔を近づけてきました。バナナオーレの匂いが段々濃くなって来ました。 「キスよ。いいじゃない。初めてじゃないんでしょ」 「あの、冗談ですよね、先輩」 「冗談じゃないわよ。本気よ。私、初めては雫ちゃんみたいな人がいいなってずっと思ってたの」 「でも、私女子ですよ」 「私も女子よ。だから何?」  香先輩は私の肩に手を回し、先輩の体温が伝わって来ました。 「女の子同士もたまにはいいと思うんだけど」  私の視界は先輩の顔でいっぱいになり、きめ細かい肌と綺麗な瞳に魅了されました。  彼の時とは違い、すごく気持ちに余裕がありました。  そして、  これもいいかも  と思い始めた時、教室の外で誰かが走り去っていく足音が聞こえました。  私はハッと我に返り、先輩を押し返しました。  すると香先輩は意外な事を言いました。 「これで理由は出来たわよ」 「理由?何の事ですか」 「彼氏と別れる理由よ」 「理由?まさか香先輩、その為に?」 「そうよ。今の足音聞いたでしょ」 「はい」 「あれあなたの彼氏よ」 「え!」 「あなたを監視してたのよ」 「監視?どうして」 「彼、覗きの常習犯よ」  私はムッとして言い返しました。 「言いがかりじゃないですか。彼がそんな人って決まった訳じゃないですよね」 「ああ、そうか。やっぱり気付いてなかったのね」  香先輩は私をなだめる様に話し始めました。 「例えばそうね、お風呂から上がって着替えているタイミングで電話が掛かってきたり、部屋の電気を消した瞬間にメールが来たりとか、そんな事なかった?」 「あ、確かに」 「それに、彼いつもあなたの居る方にカバンを持っていたでしょ」 「そうですけど、それが何か」 「普通恋人と並んで歩くんなら、相手のいない方の手でカバンを持つのが普通でしょ」 「それは癖だと思ってましたけど」 「ちがうのよ。カバンにカメラを仕込んでるのよ」 「まさか」 「本当よ。彼、あなたが履いているパンツの色、知ってるわよ」 「え、でもそれじゃ彼は、ストーカーじゃ……」 「正真正銘ストーカーよ」  私は怖くなりました。  でも、一応香先輩に聞きました。 「でも、香先輩はどうしてそれを知ってるんですか」 「そういう情報が入ったからよ」 「情報?」 「ええ。しかもかなり生々しくね。例えばどこかで盗み撮りしたような動画を見ていたとか、あなたの家の付近をうろついている男が居るとかね」  香先輩はその後、私にスマホの画像を見せてくれました。  そこには私の家とか、部屋のカーテンの隙間から見える自分。そしてスカートの中まで、身の毛もよだつ様な画僧が満載でした。 「な、何ですかこれ」  香先輩は表情を変えずに答えました。 「これ全部、あなたの彼が撮った画像よ」  私は心の底から恐怖を覚えました。 「香先輩。私怖いです。どうしたらいいですか」 「じゃ、約束してくれる?」 「約束?」 「しばらくの間、登下校は私と一緒。いい?」  私は素直に頷きました。 「はい」
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