その一 鰻沢香という先輩

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その一 鰻沢香という先輩

 始めまして。  私は「広瀬 雫(ひろせしずく)」といいます。  現在十六歳の高校一年生です。  成績とか身長とかはおいといて、自分では普通の女子高生だと思っています。  そして、この物語の語り部でもあります。  さて、私がこの事を語ろうとしたのは、私が所属している「後生(ごしょう)クラブ」の会長「鰻沢 香(うなさわかおる)」先輩の事を紹介したいと思ったからです。  あ、そうそう。  『後生クラブ』って何なのかにつきましては、ここでは割愛させてもらいまして、後々語る事にします。  さて、  私と先輩が出逢ったのは二週間程前。  私が彼氏との待ち合わせで、学校の玄関先で一人で立っていた時の事でした。  憂鬱な気分で曇り空を眺めている私に、香先輩が声を掛けてきたのが切っ掛けです。 「こんにちは。どうしたの?」  初対面でいきなり「どうしたの?」と聞かれて、私は戸惑いました。 「え、あ、別にどうもしませんが」 「そう?顔に困ったって書いてあるけど」  私はその言葉を聞いて一瞬ギョッとしましたが、なぜか安心感を覚えました。  なぜなら、その時の私は本当に困っていたからです。  戸惑っている私に、香先輩は続けました。 「私、鰻沢香。あなたは?」 「ひ、広瀬雫っていいます」 「そう、じゃ雫ちゃんって呼んでいい。その方がかわいいし」 「あ、はい。いいです」 「私の事は香でいいわよ」 「はい。香先輩」 「で、何かあったの」 「別に何かって程じゃありませんが」  警戒心からか、私は言葉を濁しました。  でも、香先輩は躊躇わずに話し続けました。 「雫ちゃん、いつもここで彼氏と待ち合わせしてるわよね」 「はいそうですが」 「うん、彼氏イケメンだし、雫ちゃんかわいいから羨ましいなって、いつも思ってたの」 「そ、そんな事ないです」 「でもね。今日の雫ちゃん、ちょっと違う」 「え?」 「すごく憂鬱な顔してる」  思いっきり顔に出ていた様です。  図星でした。  正直、私はもう彼には失望していました。  いえ、もう会いたくないとすら思っていたんです。  少しだけ私より背の高い香先輩の目を見ていると、なぜか母親の様な安心感を覚え、私は正直に胸の内を話しました。 「もう、会いたくないんです」  香先輩は少し首を傾げて聞きました。 「彼に?」 「はい」 「そう。あんなに仲良さそうだったのに。どうして?」  私はひと呼吸置いて、思い切って言いました。 「彼、最近、やたらと体を求めて来るんです」
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