殺し屋、はじめました

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このままじゃクソ上司を仕留め損ねちまうって、俺は慌てて跳ね起きてアパートを飛び出した。せっかくだから前日作ったビラは扉に貼ってね。我ながらいい出来だったよ。 大急ぎで会社の前まで行ったらまだ定時ちょっと前でさ。ホッと一安心なんて思った矢先にまた大変な事実に気づいたんだ。 俺殺害用の凶器をなんにも用意してなかったんだ。ビラなんて作ってる場合じゃなかった。 仕方ないから近所の百均ショップで果物ナイフを買ったんだ。やむを得ないとはいえ、自分の計画性のなさに腹が立ったもんだよ。 まあともあれ購入した果物ナイフを懐に握りしめながら、俺は会社近くの街路樹の陰で上司が出てくるのを今か今かと待ってたんだ。 そしてついにと定時を過ぎ、上司が会社の入り口に姿を現した。 いよいよだ、長く苦しい引継ぎ期間だった。だがあんたの命もここまでだ! そう思って勢いよく飛び出した瞬間、全く予想外のことが起きたんだ。 近くに停まってた乗用車が急に唸りだして、クソ上司めがけて走り始めたんだ。 いやびっくりしたね。上司も同じくらいびっくりした顔をしてたよ。けどその顔を見れたのも一瞬でさ。なんせ上司はその直後に向かってきた乗用車に撥ねられて、会社の入り口にきりもみ回転しながら突っ込んでったんだからさ。 乗用車も勢い余って会社の壁にぶち当たってたよ。よく見ると運転席に座ってたのは先月辞めた横田ってやつでさ。 近づくと横田は「へへ、やってやったよ……ざまあみろクソ野郎」とか血まみれになりながら言ってたよ。 横田も俺と同じくらいクソ上司によく叱られてたんだ。きっとあいつも俺と一緒のことを思いついたんだろうさ。 でも確か横田は電車通勤で車は持ってなかったはずだから、乗用車はたぶんその復讐のために事前に用意したんだろうな。 かたや果物ナイフしか準備できなかった自分が無性に恥ずかしくなったよ。
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