殺し屋、はじめました

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ぶつぶつ言ってる横田をほっといて入り口で倒れてる上司に近づいて「大丈夫ですか?」って無事を確認しに行ったんだ。 俺が殺すはずだったのに、その前に死なれちゃたまったもんじゃないからね。 上司は弱弱しい声ながらもこっちを見て言ったんだ。 「なんだ……何が起きた。俺は一体」 「横田が乗用車で突っ込んできたんです」 「よ、横田だあ?……あの野郎。人殺しの犯罪者めぇ……!」 その上司の一言で俺は愕然としたよ。 なんでこんな重要なことを失念していたんだってね。 殺人は犯罪だ! まったくもってとんだ大誤算だ。一石二鳥なんて話じゃないよ。殺し屋は法に触れる仕事じゃないか。道理でウェブサイトが一つもないわけだ。 その時の俺の衝撃をなんと表現したらいいものか。 呆然とした俺をよそに辺りが騒がしくなってきて、あれよあれよという間にパトカーやら救急車が走ってきた。 そして横田とクソ上司ともども救急車に連れてかれていった。 残されたのは俺ただ一人。仕方なくトボトボと帰路についたよ。 思惑が全然うまくいかない最悪な一日だったさ。 でも帰り道で考えたよ。あの二人は俺に殺し屋がいけない仕事だって身をもって教えてくれたんだなって。 あと少し遅ければ俺は横田の代わりに警察に逮捕されるところだったんだから。いやホント二人には感謝しかないですよ。 え?上司?さあ、無事なんじゃない? あの人にはもう用事はないですから。殺意もないし、引継ぎも済んでるし。 そんなこんなでようやく自分のアパートに着いたんですよ。 そしたら出てきた時に貼ったビラが出迎えてくれてさ。 カラフルな書体でよく目立っててね、慌てて引っぺがしたよ。 なんて書いてあったかって? ”殺し屋、はじめました。” 勘弁してよ全く、冷やし中華じゃないんだからさ。 殺し屋?やめたよ。今は求職中。 次は青果店でもはじめようかな、果物ナイフも買ったしね。
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