かつて他人だった君に

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*  ――という話なんだけどね。  なにしろ当時蛇だったぼくだ。記憶の容量なんて大したことはないし、ものごとを考える力だって今に遠く及ばない。見てきたことのように話すけれど、ひとと同じように見えていたわけじゃない。  だからこれは、ぼくの魂の記憶をさかのぼって、ぼくが見て、感じた話。  それでも起きたことはほんとうだ。昔は蛇で、人間に生まれ変わったのも。  あの頃のぼくらの関係は何と呼べばいいんだろうね。互いに友達ではないと言い張っていたし、言葉さえ交わせなかった。……ぼくらはたぶん、「他人」だったんだろうな。蛇と人で「他人」というのも変な表現だし、寂しいけれど。  あの頃のことを思い出したら、君もやっぱりあの奇妙な関係をどう呼べばよいのか悩むのかな。  でも、憶えていなくて構わない。ただ聞いてくれればそれでいい。こうして出会うまでのことを、語らせてほしいだけなんだ。  話を聞き終わった君は戸惑うかもしれない。ぼくのことを不審に思うかもしれない。初めて会った――しかも年上の相手にこんな話をされたら、当然だよね。ぼくだってまさか君がうんと年下の小学生だとは思ってなかったけどさ。  でも嬉しかったから、つい呼び止めてしまった。ずっと待っていたんだもの。  ……ぼくは君に、君が示し続けてくれた心を贈りたいんだ。  かつて他人だった君に、ぼくは手を差し伸べる。どうかこの手を握り返してほしいな、と願いながら。  あの頃君となりたかったものがある。それを今、始めよう。そのための一番はじめの挨拶だ。  ねぇ、どうか。 「ぼくと、友達になってくれないかな」
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