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次の日、君は本当にぼくに食べ物を用意して待っていた。
蛇の食べるものなんてひとの子どもに分かるのかな、と思っていたけれど、君はどうやら家にある図鑑で一生懸命に調べたらしかった。差し出された小さな蛙を、ぼくはぱくりと口にする。
――どうだ、美味いか。
むごむごと食べるのに専念しているぼくに問いかけてくる。集中してるんだから話しかけないでくれよ、と目線で訴える。そんな無言の訴えにも気づかず、君はふふんと胸を張る。
――僕に感謝してみせろよ。
と胴体をつついてくる。鬱陶しいし恩着せがましい。こいつはひとの間で好かれなくて当然だ。
そうして時間をかけてすっかり蛙を飲み込んでしまうまで、君はずっとぼくのことを見ていた。食べる姿を眺めるなんて不躾だよね。
そんなぼくの心の内も知らず、君はまた日々の愚痴を語り始めた。同級生がみんな馬鹿ばかりで相手にならないということ。休み時間になっても話しかけてはやらないのだ、時間の無駄だもの、とまた偉そうに口にする。
――あんな貧乏人も頭の悪いやつらも、相手にする価値なんかないんだ。
そうやって毒づくくせに、不意に塀の向こうから聞こえてきた声にはっと顔を上げる。釣りに向かう複数の少年たちの声。互いを信頼し合う友達同士の会話が、君の存在を世界のどこにもないように無視して塀の向こうを過ぎて行った。
君は膝を抱えて顔をうつむける。
――なんだよ。
体が重いので尾の方だけを君の足首に絡めて、ぼくは自分の存在を示した。
――別になんとも思ってない。
悔しくはない悲しくはないと君は嘘をつく。
――ぼくは寂しいやつなんかじゃない。
置き去りなのは自分ではない、世間の馬鹿なやつらのほうだ、と君は必死に唱えて膝を抱えていた。
その間ずっと、ぼくは尾を君の足首に触れさせていた。
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