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走り抜けた先にある林で、ガキ大将はぼくを地面に放り投げた。
残酷な子どもの瞳。
子どもは虫を殺す。魚を獲って傷つける。蛇や蛙も戯れに殺して悪気なく笑う。残虐なばかりの精神を持っている。
……だからぼくという蛇一匹がこうして捕まって殺されようとするのも、不本意だけど、たぶんよくあること。
仕方ないよね。……仕方ない。
――ガキ大将はぼくを思い切り痛めつけた。
怖くて痛くて、苦しかった。
実際どんな目に遭わされたのか、あまりの恐怖に現実感が無くて忘れてしまったけれど。
肉体に与えられる苦痛がひどくて、意識は朦朧としていた。だからぼくはぼく自身のことにかかりきりで、あの時、君が助けに来てくれたことにもすぐに気付けなかった。
……かすむ視界の中で、君が申し訳なさそうな顔をしているのを見つけた。
きっとぼくのありさまはひどいことになっていたんだろう。
ぼくの姿を見て、君は叫び声を上げた。
怒りと――後悔と、悲しみと。そういう感情いっぱいに、君は叫んだ。
罪の意識なんて感じる必要ないのに。君が僕を殺したんじゃない。傷だってひとつも付けなかったろう。
『この蛇は僕の友達だ』
あの時庭で、そう言えなかっただけだ。素直じゃないから、気位ばかり高いから、人の目ばかり気にしてほんとうの気持ちが言えなかっただけだ。それにちゃんとそう言えていたところで、ぼくが殺される結末は変わらなかったよ。
だからさ、気にしないでよ。だいじょうぶだよって、……言えたら良かったのに。
君がぼくを大切に思っていることなんて知っている。ぼくのこんな姿を見てショックを受けたんだろう。言葉を失ったんだろう、叫ぶしか出来なかったんだろう、……辛い思いをさせたねって、慰められたらよかったのにね。
君が傷つくことじゃないよって、言ってあげたかった。
だけどぼくはちっぽけな蛇だから、君の心を守る言葉のひとつもかけてあげられない。
慰めることもできないまま、君の叫び声を最後の思い出に、ぼくはそのまま死んでしまった。
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