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あとから聞いた話によると――誰にって? 神さまにだよ。ひとの形をした神さま。うんと痛めつけられて気が遠くなって、気付いたらぼくの前に立っていた。
かわいそうなことだな、と神さまは言った。
――ひとの子どもは残虐だな。お前さん、胴体を切られて焼かれて死んだぞ。
見てみるか、と言われたけれどそんな自分の姿は絶対に見たくないので断った。
――だろうな、見たくなかろうよ。だけどそんなお前さんの姿を見てしまった子どもがいるぞ。
最後の時、意識が朦朧としていたぼくはすでにそんなありさまになっていたそうだ。君が叫び声をあげたのは、切られてあぶられるぼくの姿を見たせいだった。
あの時すぐにガキ大将を追いかけなかったのは、家に武器になるものがないか懸命に考えていたからだそうだ。ぼくを守るために、応戦しようとしていたんだね。
けれど竹ぼうきを持ってようやく追いついた時にはすでに遅く、ぼくの死にゆくさまを見てしまったそうだ。
君は狂ったように叫び、ガキ大将を竹ぼうきでやたらめったらに叩いた。振り回し過ぎて落としたほうきをそのまま捨てて、今度は素手で手加減なしに殴りつけたという。
手の皮は剥けて血が流れた。ガキ大将はごめんなさいと繰り返してうずくまった。それでも君は赦さなかった。
最後には「同じ目に遭わせてやる」と着物に火をつけたというのだから引いてしまう。取り返しのつかないような事態にはならなかったそうだけど。
――激しい感情を持つ子だな。口下手なせいでますます心を抑えることが出来ない。よほどお前さんがだいじだったらしい。
たかが蛇なのにね、とぼくは答えた。
たとえ殺されることがなくとも、寿命もうんと短い。そんな生き物に心を傾けるなんて。
ばかだなぁ。ばかだなぁ。
ぼくは心を返せないよ。君がくれたのと同じだけの心なんて、とても返せない。
そう思うのに、目からは涙が零れていた。
……蛇の目から涙が出るなんて。
――今生では無理でも、「次」があると言ったらどうするね?
神さまはぼくをためすようにそう言った。
ぼくは答える前に、最初に気になっていたことを尋ねた。
――どうしてぼくの神さまなのにひとの形をしているの。
蛇の神さまなら蛇の形であるべきだろう。
――私がお前さんにとっての神さまだからだ。ひとによっては形がなく、生き物ですらなく見えもしない。けれどお前さんは「神」をこの形としてとらえた。お前さんにとっての救いはこの姿なんだろう。涙を零したのも、もうお前さんが次の命の在り方を決めているからこそだと、私はそう思うよ。
神さまは雲のように掴みがたいふわりとした笑みをぼくに向けた。
さあ、お前さんは選べるぞ――と神さまは言う。
――生まれ変わったら、何になりたい。
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