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ラッキー!
ところが彼女の家に着いて私は思わず心の中で
『ラッキー!』
と叫んだ。なぜなら彼女には5人の息子がいるらしい。上から順番に27歳のイチロー、25歳のジロー、22歳のサブロー、20歳のシロー、17歳のゴローである。皆、最高に美味そうな若い異性!
私はゴクリと生唾を飲み込みながらも、テキストに従い、寂しそうな目をして部屋の隅の方に震えて立ち竦んでいた。
イチローは明るい声で、私のために食堂の真ん中の椅子を引いて言った。
「緊張しなくていいよ。さ、さ・・・ここへお掛けなさい。」
私が椅子に腰かけるとイチローとゴローがすぐ私の両脇に腰かけた。イチローは、まるで前々からの知り合いみたいに私の顔を覗き込んで話し続けた。
「僕は中学校で体育の教師をしてる。ジローは証券会社に勤めていて、帰りはいつも終電ギリギリさ。サブローは美容師。もうそろそろ帰ってくる頃かな。シローは音楽の専門学校生。ギターのプロを目指してる。そしてゴロー。おまえ、自分で自己紹介しな。」
話をふられたゴローは顔を真っ赤にして私の目を見たが、弱々しい声でささやくように言った。
「あ・・ぼ・・僕・・高校3年です。えっと・・そ・・その・・来年は受験なので・・毎日・・勉強がんばってます」
あはははは・・・と大声で笑ったイチローは私の頭の上から手を伸ばし、ゴローの頭を突っついて
「コイツ、ホントかわいいんだ。今どき珍しい純朴な男子さ。多分、こんな近くから女の子を見たのは今日が初めてっていうくらい・・・な・・・そうだろ?」
などと茶化している。
やがてジロー以外の息子たちと、その両親が勢ぞろいして夕食は始まった。肉あり魚あり野菜あり、豪華な食卓である。毎晩こんな料理を食べて育った息子たちの血は、さぞかし美味いに決まっている。私は期待に胸が高鳴り、思わず微笑みそうになる。
いや、まだダメだ。テキストに従うなら、初めて出会った人に対しては24時間は警戒し、冷静沈着に観察しながら、不適切な病気を持っていないか確認する必要がある。
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