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ヤバい!
私は夕食をご馳走になり、誰よりも先にお風呂を使わせてもらい、ベッドルームに案内された。その部屋はゴローの部屋の隣にある4畳半程の洋室で、普段から客間として用意されている部屋らしく、ベッドと鏡と小さなテーブルと椅子がある。ベッドの上には私のために用意された女性用のパジャマと真新しい下着の上下セットが、きちんとたたまれ用意されていた。
私に初め声をかけてくれた母親は優しく微笑みながら、こう言った。
「私のことは、お母さんと呼んで下さい。夫のことは、お父さんと呼んで下さい。何か困ったことがあれば、どんなことでも誰にでも遠慮なく話して下さいね。あなたの着替え、明日になったら一緒に買いに行きましょう。他に何か必要なものがあれば買いますから、何が必要か考えてメモしておいてね。そのテーブルの引き出しにノートとボールペンが入ってますから。」
私は驚いた。吸血鬼の世界で399年生きてきたけれど、こんな親切にされたことは一度もなかった。人間の優しさに触れ、私は少し不安になった。
ノートに必要なモノをメモしていたら、コンコンと部屋をノックする音がしたのでドアを開けると、
「ジローです。初めまして。」
と美しい若い男が微笑みながら、胸に響くようなバリトンでそう言った。ジローは父親に似ていたが、若く美しく瑞々しく、私は一目惚れしてしまった。
ああ、もう、この男に決めた!私は、この男が欲しい。この男の血が欲しい。
「少し、部屋に入って話をしてもいい?」
ジローはそう言った。
「ええ、どうぞ。」
私はすでに胸が高鳴り、まだ健康状態も何一つ確かめていないジローの首に噛みつきたい衝動に駆られた。
「エマちゃんっていうんだよね?」
「はい。エマです。」
「いくつ?」
「19歳」
「そう。今夜、落ち着いて寝られそう?」
「いえ・・・あの・・・」
「うん?どうかした?何か困ってる?俺でよかったら話聞くよ。」
ベッドに二人並んで腰かけて話していたけれど、私はもうジローに噛みつきたくて堪えきれなくなっていた。私は必死で堪えようと頑張っていたが、我慢しきれなくなって涙がポロポロとあふれた。
「辛い目にあったんだね?」
ジローはそう言いながら私の肩を抱いた。
ああああああああ!ダメだ、ダメだ、まだ出会って24時間経っていない、健康状態も病気の確認もできていない男の血を吸ってはいけないんだ。私は心の中で必死に欲望を押さえ、全身がワナワナと震えた。
「かわいそうに。僕にできること、何かないかな?」
ジローは私の背中をさすりながら、私の顔を覗き込んだ。
ぎゃああああ!やめて~、もうホントに噛みついちゃうぞ!私は激しい欲情を堪えるあまり、思わず『わっ!』と泣き出してしまった。
ジローは私の体を抱きしめた。もうダメ。限界突破しちゃう!
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