立候補者と推薦者

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立候補者と推薦者

 この親切な家族の優しさに感動し、私は本当のことを話すことに決めた。そして、この家を出て、消えてもよさそうな人物を探そうと思った。  私は正直にすべてを話した。だが、みんな信じてくれなかった。ジローは目を輝かせて 「エマちゃん、小説家になれるよ!」 と言ったし、イチローは私の知能を疑い 「君、出身高校は?」 と聞いてきたし、お父さんは相変わらずの気遣いで 「何もかも忘れてしまいたいんだね?」 と言った。  だがサブローは少し考えてから、こう言った。 「あのさ。俺ら全員、血液型B型なのさ。もし、エマちゃんの話が本当だとすれば、俺ら兄弟5人と父さん母さん合わせて7人の血を7分の1ずつ吸っても大丈夫なんじゃない?そうすりゃ誰も死なないで済むんじゃね?」  すると、お母さんは質問した。 「ちょっと待って!吸血鬼に血を吸われたら、吸われた人も吸血鬼になってしまうんじゃないの?」  私は苦笑して答えた。 「サブローさんが仰る通り、もし皆さんの血を少しずついただけるなら、私は助かると思います。ただし、お母さんが仰る通り、私に血を吸われて生き残った場合、その方も吸血鬼になってしまいます。」  お母さんは真面目に質問を続けた。 「もし家族全員が吸血鬼になった場合だけど・・・吸血鬼は生の血液を飲まなければ生きられないの?それだと食事の用意がとても大変だわ。」  私は吸血鬼の生態について説明した。 「生の血液は、とても飲みたいけれど理性で我慢することはできます。ずっと我慢して人間と同じ食事をしていても健康的に問題はないんです。ただ、異性の血を吸いたいという体の欲望はあります。欲望に負けなければ普通の人間と同じように生活することはできます。」  お父さんは決断したように言った。 「よし。わかった。それでは私とお母さんの血を半分ずつ吸いなさい。息子たちはまだ若い。吸血鬼にする訳にはいかない。」  するとイチローは言った。 「いや。父さんと母さんの血を半分も吸ったら、父さんも母さんも死んでしまう。僕は頑張れる。僕の血も吸ってくれ。」  するとジローも言った。 「まてまて。人間は血液の30%以上出血すると命に危険があると言われているんだ。3人だと単純計算で一人当たり33%の血を失うことになる。それじゃ、3人全員が死んでしまう可能性が高くなる。僕の血も吸ってもらってかまわないよ。吸血鬼って、何だかロマンがあるじゃないか。異性の生の血を吸いたい欲望って・・・想像しただけでドキドキしてくるよ。」  シローは相変わらずジローを(さげす)むように言った。 「ふん、ジローは吸血鬼になった途端、欲情に駆られて世界中の少女の血を求め、世界中の人間をアッという間に吸血鬼に変えてしまうさ。それくらいなら、初めからジロー1人の血をすべてエマちゃんに吸わせてやった方がいい。好きなんだろう?エマちゃんを。命を張って、血を吸わせてやれよ!」
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