柊先生の夏

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 先程電話していた友人も書道家だ。大学時代の同級生で、関と言う。関は俺と違って快活で目立ちたがり屋だ。自作の詩を色紙に書いて路上で売ったり、人の集まるイベントで絵描きに混じって書道のパフォーマンスをしている。パフォーマンスというのは身長ぐらいの大きな筆を持って、でかでかと文字を書くやつだ。Twitterやインスタグラム等で作品をせっせと投稿し、宣伝にも余念がない。その成果もあって、関は若手書道家にしてはなかなか売れているようだ。  俺は関がするような活動は一切していない。なんだか気恥ずかしくてできないのだ。  関はそんな俺の気質を知っているはずなのだが、何かイベントがあるたびに一緒にやらないかと誘ってくる。さっきも書道パフォーマンスの枠がまだ開いているからどうだと誘われたのだが、断った。いつものことだった。  書道教室を行っている公民館へは徒歩で向かう。信号のない細道を通って、歩いて向かっていた。こういうところの方が影が多く涼しい。まだ午前中なのに、日に当たると暑くてたまらない。  七月の下旬。梅雨も終わり、本格的に夏が始まろうとしていた。
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