柊先生の夏

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 書道教室が始まると、慶太はいつもより集中して取り組んだ。コンクール用の課題の作品を三枚書いてすぐに俺のところに持ってきた。普段より良い出来だったので、「コンクール用はこれでいい」と言うと、慶太は喜んで看板用の文字を書き始めた。  慶太は書き初め用の細長い紙に、勢いよく筆を奮ったが、すぐに首をひねった。 「柊先生」 「どうした」  様子を見にいくと、どうやら文字のバランスを取るのに失敗したようだ。「冷やしすいかはじめました」という言葉を一行で書こうとして、最後の方の文字が入らなくなってしまっていた。普段は半紙に二文字の漢字を書いているだけだから、失敗しても無理はないだろう。 「よし、じゃあ見本を書くよ」  筆を手に取り、見本を書いた。 「おおー、柊先生はさすがだなあ。これ使った方が売れそうだなあ」  慶太はまじまじと見本を眺めて言った。 「せっかく習ってるんだから、自分で書きなって」 「はあい」  慶太は俺の書いた「冷やしすいかはじめました」を横に置いて、また書き出した。  すると、教室に異変が起きた。他の生徒も慶太と同じように書きたいと言い出した。 「なんだ、みんなも冷やしすいかはじめるのか」 「ちがうけど、コンクールのよりあれ書いてる方が面白そうなんだもん」 「そうか。じゃあみんなもなにか最近始めたことでも書いてみて」 「はーい」  皆書き初め用の紙を持ち出して、何やら書き出した。
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