柊先生の夏

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「……俺、人前でパフォーマンスとか、苦手だから。そういうのはいいよ」  電話の向こう側にいる友人は、まだ何か言っていたが、 「悪い、もう仕事の時間だから」  そう言って無理矢理通話を終わらせた。  電話が終わると、一人でいる和室に風が入ってきて、窓辺に掛けた風鈴がチリンと鳴った。  やっぱり、こうやって静かに過ごす方が合っているよな、と思いくつろいでいると、襖が開いた。 「(しゅう)ちゃん、もう教室の時間じゃない?」  と妻の凛子に言われた。 「ほんとだ、やばい」  もう仕事に行かなければいけない時間である。さっき「もう仕事の時間だから」と友人に言ったのは嘘ではないのだ。  俺は一応書道家である。といっても別に有名ではない。主な仕事は書道教室の先生だ。今も書道教室の時間に遅れそうなので慌てている。 「行ってきます!」  凛子に慌ただしく告げて、家を出た。
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