バー・雫

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バー・雫

「いらっしゃいませ」  昼にもかかわらず多くの客で賑わっている話題のバー  一つだけ空いているカウンターの席に着くと うっすらと口髭をたくわえたバーテンが、惚れ惚れするような低音ボイスで私を迎え入れる 「えっと、初めてなんですけど」 「かしこまりました、では私からオススメの一杯を」  そう言うとバーテンは、並べられたプッシュ式の醤油刺しのようなモノから一つを手に取った 「こちら、初恋の成就でございます」  ピチャン  差し出されたワイングラスに、醤油刺しから一滴の雫が滴下される 「こちらは私からのサービスでございます。 値段のことはお気になさらず存分に堪能して下さいませ」  たった一滴を存分に堪能する。他の店であれば違和感を感じることだろう。  しかし、このバーで提供されているのは涙 それも記憶の残っているモノ  私はをワイングラスの曲線に滑らせ、口の中へと迎え入れる  口の中に広がる甘酸っぱい香り 「お客様、目を瞑っていただけるとより一層の深みを味わうことが可能でございます」  そういえば、テレビで見たときは皆目を瞑っていた  初心者感丸出しで恥ずかしくなってしまったが、目を瞑るとそんなことどうでも良くなるくらいの世界が広がる
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