七つの子

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.  発達障害──名前くらいは知っていたけど、実際にどんなものかまでは知識がなかった。  “変わった子”、“個性の強い子”、“不思議ちゃん”──そんなイメージが、“障害”という単語で俄に不穏なものに一変していく。  おそらくわたしの動揺が、顔に出ていたんだろう。先生は、まるで菜々でもあやすような優しい口調で、ポツリポツリと説明し始めた。  生まれつき脳の発育に異常がある状態で、自閉スペクトラム症や注意欠陥・多動性障害、学習障害、チック障害など、大まかな分類がいくつかあるらしい。  いずれにしても、コミュニケーションや社会生活に支障をきたす場合が多く、周囲の理解と支援が不可欠だとか。 「まだそうと決まったわけではありませんが、菜々ちゃんをより理解するためにも、早期の検査は受けておいたほうがいいように思うんです」  いつの間にか無性に口の中が乾いており、急いで含んだ紅茶は、なぜか味がしなかった。  ニ年生になっても、いまだに補助輪つきの自転車にさえ乗れない菜々。  何かに夢中になると、それ以外のものが見えなくなり、すぐ忘れ物をしたり怪我をしたりする菜々。  もう何十回と聞いた話を、何度も何度も、まるでこれが初めてのように繰り返す菜々。  やがて時が来れば、全て解決するものと思っていた。  他の子よりも、ちょっと時間がかかるだけだって。 「発達障害は知的障害ともまた違って、中には学校の成績が優秀な人もいますし、特殊な分野で才能を開花させる人だっているんですよ。 周りの支え方次第で、ちゃんと幸せになれるんですからね」  先生なりの励ましだったんだろうけど、その言葉が意味をなさずに、ただ頭の中を素通りしていく。  子供部屋の方から、菜々の楽しげな歌が聞こえていた。またいつもの、自分で即興的に作った、浮かんだ単語にメロディをつけて繰り返す歌だ。  日頃から微笑ましく聞いていたはずのそんな歌が、今はやけにわたしの胸を掻き乱していた。 .
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