七つの子

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. 〜〜〜〜〜  その日は、朝から雨が降っていた。  気象庁の発表だと、かなりの豪雨を伴った低気圧が近づいているらしいけど、菜々にとっては水溜り遊びが出来るイベント程度の認識なんだろう。握っていた小さな手が突然引っ張られたと思ったら、また赤い長靴が水溜りの上で足踏みを始めていた。  わたしが注意もせず、黙って見つめていたのは、先程の医師の診断結果を受け入れたからではなく、怒る気力さえも湧いてこなかったから。  ADHDと略される、注意欠如、多動性障害。それと軽度のアスペルガー症候群が混同したもの。現在の医学で完治の手段はなく、支援なくして自立した社会生活をおくるのは困難。それがこともなげに告げられた、残酷な現実だった。  菜々の長靴から跳ねた泥が、わたしのストッキングに付着するに任せたまま、歩道に佇む。  静かな住宅街に降りしきる雨が、壊れかけた日常風景に走る、映像ノイズみたいに見えていた。  百人に六〜七人の障害が、なぜ、よりによってこの子なんだろう?  この子はこの先、どんな人生を歩むことになるんだろう?  わたしはこれから、どんなふうにこの子と接していけばいいんだろう?  「ねぇ見てママ、雨がみんなでかけっこしてるよ!」  路駐された車のフロントガラスを伝う雨粒が、菜々にはそう見えるのらしい。我先にと伝い降りる無数の雨粒の中で、1つだけ流れられずに他から置いていかれる小さな滴。それが娘みたいに思えた瞬間、わたしは強引に菜々の手を引き、家路へと足を早めたのだった。 .
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