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シフォンケーキを切っていたわたしの後ろで、落ち着かない様子の菜々が、またテーブルの周りをぐるぐると回りはじめていた。
お気に入りのクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、時折それの耳に何かを囁きながら。
そうかと思えば、何かを思い立ったように突然階段を駆け上がり、ニ階の窓から、じっと外の通りを見下ろしてたりする。
そんな事をもう何度も繰り返しているうち、ついに彼女の目当てとするものが通りに姿を見せたらしい。
「ママァー、保田先生っ!
保田先生来たよぉーっ!」
まるで飼い主でも待っていた留守番犬みたいに、思いきり尻尾を振るような笑顔でキッチンへ駆け込んできた菜々は、その勢いのままわたしのエプロンにしがみついた。
絹のように柔らかい髪を撫でると、思いきり細めた目に、まだ乳歯が残る歯を剥き出し、ふっくらしたほっぺを引き上げる。
小学校の担任の保田先生から、突然時期外れな家庭訪問の電話があった時。正直わたしは驚きもせず、やれやれと肩を落としただけだった。
他の親御さんならば、自分の子供が何か問題をおこしたんじゃないかと勘ぐり、心中穏やかじゃないのだろうけど、我が娘に至っては保育園の頃から相当な問題児で通っている。
お弁当の時間に、唐突もなく泣き喚いて暴れたのは幼稚園の頃。去年は体育の授業中に突然行方不明となり、郵便局の陰で泣きじゃくっているのを発見された。最近では、国語の授業中にいきなり教室を飛び出し、トイレで泣いていたという話を聞かされたばかりだった。
“泣き虫菜々”。いつしかそんなあだ名で呼ばれるようになったのは、ある意味当然なんだろうけど、困ったことに、泣き出す理由のほとんどが、いまだにわたしにも理解不能なのだ。
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