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路地裏の魔法使い
沢山の高層ビルがそびえ立つ大都市、その中で一際目立っている真っ白なビルの地下一階、
"鳥井探偵事務所"
事務所というには人が僅か1名しかいなく、最低限な必要なものしか置いていないせいで質素に感じてしまう人も多いだろう。
「ねぇ、わかってる?もう依頼をお願いしてから1か月も経ってるのよ」
そんな空間で、パッと見の印象は40代くらいの女性がどこか熱っぽい視線を送りながら怒っている姿に、男は無表情ながらもバレないよう小さくため息をついた。
「もう、いつになったら解決してくれるわけ?ほかの探偵さんに頼んじゃうわよ。
それじゃ、あなただって困るわよね?」
全然、困りはしないんだが…
1週間後にまた来るから!
そういい残して去っていった姿を見送りつつ、今度は大袈裟な程の大きいため息と、一応お客だからということで遠慮した愚痴を一つ。
「何度も調査結果報告してんのに、嘘だって騒いで先延ばしにしてんのはそっちだろ」
探偵と名乗っているくせ、ここ最近覚えてる限り受けた依頼は猫探し五件と浮気調査三件。何の面白味もないレパートリー。
別に面白さなんか求めてはいないけれども。
「さっきの浮気調査どうにかしないとな」
相手のせいもあって進展が全くといっていい程なく憂鬱で嫌になる。
まぁ、仕事だし仕方ないのだが……
昨日、苦労の甲斐があって解決した猫のちくわちゃん事件の結果報告書を確認して、飼い主のお婆さんが言っていた話を思い出す。
「路地裏の魔法使い……ねぇ」
口角が思わずあがってしまったのを感じた。
なんとも胡散臭さを感じる内容だったけれど、まぁ気晴らしには最適だろう。
肌寒くなってきた季節を思い浮かべ黒いパーカーを羽織る。探偵というよりかはむしろ不審者といった方が無難な格好で、地上への階段を一段一段上っていった。
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