路地裏の魔法使い

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* 「この指輪、大切な人から貰ったんですけど壊れてしまって…… 直してもらえませんか?」  1時間、身体が動かなくなる代わりに、"なんでも願いを叶えることのできる力"。  それを手にしたとき人はどう思うのだろうか。 「もちろんできるよ。次はもう壊さないように大切にしてあげてね」  手に入れたのが私じゃなければ、どのように使われていたのだろうかーー  高層ビルの立ち並ぶ隙間の路地裏、 そこが私の住処で、必要とされる居場所。願い叶え、たまにお礼として食べものやお金を恵んでもらう日々。  椅子に座っている状態から、  最初に脚  次に腕  そして関節  触覚、味覚、嗅覚、視覚と順番に。  最後まで聴覚だけは取っておくのが私のルールだった。人と会話ができなければ、願いを聞くこともできなくなってしまうのだから。  このように夢がないことを言えば便利とも思えない力なのだ。沢山の願いを叶えたくとも、私も人間の身体をしているから売り払える代償は限られている。  まぁ、それでも、どれだけ身体を代償にしても1時間で元どおりになるのだから素晴らしいのだとは思うけれど。 「うちのジジィが病気にかかっちまってさ、  それが滅多にない病気っていうから手術やら薬やらで金が足りねぇんだよ!俺も家庭を持ってる身で払える金は限られてんだ。 なぁ、なんとかしてくれよ……っ!」  あぁ、またか……  よくあるのが、お金の関わる願い。何が本当で何が嘘なのかもわからなくて厄介。誰かだけに大金を与えるっていうのは、あっているのだろうか……  わからない。 「いいよ、こんだけあれば足りる?」  それでも本当に困っているんだとしたらと考えると、見捨てる訳にもいかないのだから。大金を手にして嬉しそうな声色でお礼を言って帰った姿に複雑な気持ちになる。  これでよかったのかな……  疑い、迷い、戸惑い、今までずっとそんな感情で雁字搦めになっていたから、 「お前、騙されてるよ」  真っ直ぐなあなたの言葉が、あまりにも痛かった。
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