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事務所のあるビルの二本先の信号のある道を曲がって、少し古めの建物に挟まれた路地の奥。こないだの依頼人の年寄りが言っていたとおりの場所に彼女はいた。
「本当だったんだな……」
探偵という職業を生かして、しばらく影に隠れて様子を見ていると何人かの客と思える人が通り過ぎていった。
指輪を直してもらった女は、必死の表情でスマホでフリマアプリを漁り、
治療費だと言って大金を手にした男は、にやけながらすぐ近くにあるパチンコ屋に入っていっく。
胡散臭いとは思ってたが、こうも貪欲な奴らの様子を見ると真実だったのだと思い知らされる。
人がいなくかったのを確認して彼女へと近づいた。目が見えてないのか視線をしばらく彷徨わせて、それでも足音から俺の位置を把握したのか顔を向けてきた。
「……悪いね、もう力を使い切ってしまったんだよ。
どうしてもと言うのなら、あと1時間ほど待ってくれれば叶えてあげよう」
座布団の上で申し訳なさそうな表情を浮かべている彼女を見つめる。
ーーこれは、魔法使いというよりも、
黒くウェーブのかかっている髪は、東の空で存在を主張し始めた月の光を受けてキラキラと輝き、
少し色素の薄い瞳は彼女の手元の液晶に照らされて、まるでサファイアのように煌めいていて、
かなりロマンチックに聞こえるかもしれないが、彼女は童話に出てくるお姫様かのような姿だった。
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