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「お前、騙されてるよ」
願いを聞いてきた彼女にそうではないという意思を伝え、その言葉を吐いたのは善意からなんかじゃなかった。
言うなれば、そう、悪意に満ちた奴らの願いを叶えてやってる真意が気になったからとでも言うべきか。
困ったような表情をするのか、それとも逆上して怒り出すのか、騙されてた事実に失望するのかーー
だがその予想を裏切るかのように、一度驚いたように目を見開いたあと彼女はケラケラと楽しそうに笑った。
「そっかそっか、ははは……っ!
そりゃまぁね、なんでも願いが叶うんだ、邪心だって働くよなぁー」
愉快そうに笑い続ける彼女に、気味の悪いものでも見るかのような目でみる。
まぁ、彼女には視えてないのだから意味はないんだが……
「それで……?私にそのことを伝えてどうするの?」
うまく息が吸えなくて喉がヒュッと鳴る。
視えてない、はずなのに……、心の奥まで見透かすような爛々とした視線に当てられて、思わずゾッとした。
それでも……、
「お前を利用させろ。どうせ此処でホームレスみたいな暮らしをしているんだろ。
俺のもとで働けば金も寝場所もやる。」
あの不思議な力を見た途端に彼女が欲しくなった。
事務所は無駄過ぎるほど広く、彼女が暮らせるようなスペースは有り余っている。あんな奴らに力を利用させているぐらいなら、俺が巧く使ってやろう。
「いやだ」
……は?
「何しに来たと思えば、なぞの怪しい勧誘?
願いは言わない、他人の嘘は告げ口、おまけに利用させろだって?
普通、いきなり会った男にホイホイついていかないでしょ」
いきなり会った奴らの願いは微笑みながら叶えるくせして俺の素晴らしい未来のための勧誘は拒絶かよ。
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