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彼女がいきなりパチパチと瞬きを凄い勢いでしながら、首をグルングルンと回した。そして得意気な笑みを浮かべ、肩などや肘・膝などの関節を少しずつ解していく姿を見て、ようやく思い至った。
あぁ、なるほど1時間が過ぎたのだ、と。
いきなりの奇行に思わず思考が止まり困惑していた俺と目が合った瞬間、本来の光を取り戻したかのような彼女の元々大きな目が、これでもかという程に見開かれた。
は……?なんなんだ、別に知り合いでもないのにその反応は。
訝し気に見つめていると、彼女はこれまでに何度も見たふざけたような笑みとは全く異なる、これ以上に嬉しいことがないとでも言うように無邪気で、どこか泣きそうなほどの満面の笑顔を見せた。
意味がわからないほどコロコロと変わっていく表情に困惑する。一体なんなんだよ、ほんと。
月がだいぶ上にあるのを見て、時間の経過を感じた。
……まぁ、気晴らしの暇つぶしもここまでか。
「動けるようになったんならよかったよ。
この季節にここじゃ冷えるだろ。暖かい場所に行くんだぞ」
一泊するには充分な札を彼女に握らせる。驚いたような表情を見て、これまで翻弄されてた分なのか何故か優越感を感じた。
俺だって探偵なのだから、情報に金を払ったまでだ。
「……っ待って!」
そう去ろうとしていれば、あげた筈の札は押し返された。
「いいよ、探偵になってあげる。あなたに利用されてあげるよ」
興味も湧いたし、そう付け足す彼女に喜びよりも疑問が勝った。
「は?お前は不幸な人を幸せにしたいんだろ。
なんで俺に利用されようとする?」
一歩一歩近づいてきて、俺の顔を真っ正面から見た彼女は不気味なほど優しく、綺麗に、微笑んだ。
「気づいてない……?
だってあなた、とっても不幸そうな顔しているんだもの」
【第一章 路地裏の魔法使い:完】
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