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臆病者の巣立ち
「おーっ!今日もここは広いねぇトリくん!」
あの出会いから一晩明けて鳥井探偵事務所、彼女は座布団(彼女のなかでは椅子というらしい)を両手で持ちながらはしゃいでいた。
それから窓辺に置いてある水辺で遊ぶ鳥を模したガラス細工が気になったのかジィっと見つめている。
いくら何でも、興奮しすぎだ……
今までホームレスだったんだから仕方ないことかもしれないが。
「朝からギャーギャー騒ぐな、偽善者。あと何だその呼び方は」
「だってあなた、"鳥井"なんだよね?じゃあ、トリくんじゃないか。
それより、その"偽善者"って呼び方のほうが酷くない?もはやただの悪口……!」
事務所の名前が書いてある紙をぴらぴらと振りながら告げる彼女。
意味わかんねぇよ……
「"井"は何処にやったんだよ」
地面に置いてきたよーっと羽ばたくように手をヒラヒラとしている様子があどけなくて楽しそうで、さっきの路地裏での奇妙な雰囲気が嘘のように感じられた。
「私ねー、あの路地裏ではよくご高齢の方々に、まるで幸福な王子様だねって言われてたんだ。そのパートナーなんだから、トリくんでいいでしょう?
ま、ツバメじゃないのが残念だけど」
「俺はツバメにはなんねぇよ。
騙されて悪事に加担してたヤツの足下でなんか死んでやんねぇ」
彼女が微笑みながら、そういう意味じゃないよと言おうとしたところで、チリンチリンと鳴りながらドアが開いて客が入ってきた。
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