足枷村

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 高校2年の夏休み。大橋瀬莉愛(せりあ)は所属する陸上部の合宿で、北関東の小さな山村を訪れていた。 「あー空気が美味しー!なんかね、生きてるって感じするわー!」 「でっしょー、ネットで調べたら合宿施設があるっていうからさ、部長に相談して決めたんだ。そうだ瀬莉愛、あんた最近、部長といい感じに…」 「ん?なあに?あ、湖?行ってみようよ心愛!」  手付かずの自然が残る深い広葉樹林、清冽な川の流れ。素敵な場所選びに成功して得意げなのは、中杉心愛(ここあ)。瀬莉愛の同級生にして陸上部の副部長である。  行動力に優れた心愛は、3年生からも信頼が厚い。  瀬莉愛はポニーテールに結った長い黒髪をなびかせて、心愛は茶髪のショートカットを生き生きと揺らしながら、湖見物へ走る。 2人はハードラー。悪路もぴょんぴょんと飛び越えて湖に到着し、光る湖面で飛び跳ねる魚に見入っていた。  その村の名、鹿(しか)()(むら)。  ギリギリ東京圏に位置するが周辺の自治体同様に過疎が進み、もはや限界集落と化していた。  かつては紡績や養蚕でそれなりに栄えた。そもそも鹿背村という名前自体、明治時代に栄華を誇った「帝國鹿(しか)()()紡績株式會社」の発祥地であることから名付けられたもの。故に、今もそこかしこに企業城下町の面影が残る。  中でも鹿ノ背紡績の巨大な本社工場跡は、重篤な歴史・廃墟マニアがこぞって訪れる穴場的スポット。工場閉鎖後は地域の基幹病院に改築されたが、その病院も10年前に役目を終え、今は完全な廃墟だ。一部に残った明治期の和洋折衷建築が貴重で美しいとされ、夏休みなどには開放イベントが催されている。  が…普段は「本当に出る」と噂の、別の意味の名所。まともな神経の人間なら寄り付かない、ヤバイ廃墟なのだ。
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