また来て

11/12
前へ
/14ページ
次へ
それからというもの。 俺は眠れない日々を過ごしている。 意味わかんない。 綾瀬のことが好きなくせに。 俺のことなんて見てないくせに。 『次会う時までに…気持ちにケリつけるから…お願い』 意味わかんない…。 あの日から1週間。 おかげで俺は寝不足だ。 「…会いたい、な」 あいつのせいで俺の頭の中は、ぐっちゃぐちゃ。 今頃どうしているのだろうとか、また転んでるんじゃないかとか、今日はちゃんと忘れ物してないかとか。 会いたいけど、ここですぐに会いに行くのもなんかしゃくだし。 それじゃあまるで俺があいつのことすごい好きみたいじゃん…。 それにさ。会ってこの淡い期待が消されるの、怖い。 そんなことずっと考えてたらいつの間にか1週間立ってたんだ。 そろそろ行かないと、また不貞腐れるだろうな。 それに、そろそろ俺も決着をつけないと。 今は夕方18時。 残業をしていなければもう仕事は終わっているだろう。 自分の部屋から出て、高志の部屋を覗く。 すこしほこりっぽい。 「高志。俺、頑張ってくるよ」 頑張ってください兄さん って返ってきた気がした。 玄関前の姿見で、今の格好がそんなにおかしくないか確認。 くるんっと回ってみる。問題なしっと。 最寄りの北千住駅についた。 電車がホームにつき、ドアが開く。 すると電車の中に 「あれ?健志?」 純が乗っていた。 こんな偶然、あるのか…? この駅は利用者数が多いため純は一旦下車し俺の方へきた。 「どこ行くの?」 むかつく、わかってるくせに。 「…お前ん家」 そういうと純はにっこり笑った。 「…だいたい、お前ん家行く以外で乗らないよこんな田舎路線」 「む、三郷は田舎じゃないぞー」 区間快速で2駅しかないのですぐに純の家に着いた。 もう「何飲む?」とは聞いてこない。 「はい緑茶」 「さんきゅ」 「…健志」 「…?」 「会いたかった」 視界が暗くなる。 俺は今、純に抱きしめられてる…? 「…なんだよ」 「健志は…?」 「まあ」 「まあってなんだよ」 「それより…もう、いいの?」 「何が?」 「綾瀬」 拳に力が入る。 「もうケリつけたから」 「どうやって」 「…千代田学園行ってきた」 「…!」 「そこで、ある先生からあの子の気持ち聞いた」 「なんで、先生が知ってるんだよ」 「さあね。俺、ちゃんと失恋できたよ」 「…あっそ」 「…」 言っていい、かな。 純からすこし離れて顔を見る。 「純也」 「え、なに改まって。お兄さん怖いなー」 「…だまれ」 「うん?」 一呼吸おいて。 「純也…す…好きだ…」 これが、精一杯だった。 「…!」 表情をうかがうと…あれ? 梅干しみたいに、顔全体が真っ赤だった。 「な、なんだよその反応…」 「だってえ…」 「だってなんだよ」 「…俺から言うって、決めてたのにいー…」 …は? 「…健志い…」 「な、なんだよ…」 「俺ね…」 「あ?」 「あの日、健志見つけた日…。俺もすごい落ち込んでたんだ…」 「なんで」 「綾瀬くんが亡くなって…ただでさえショックだったのに、あの日は上司にこっ酷く叱られて…消えてしまいたくなった…」 「うん」 「でも、あの公園で君を見つけて…そんな気持ち吹き飛んだ。今にも消えてしまいそうで儚くて…綺麗だって、思った」 「…」 「守らなきゃなって思って…ここに連れてきた」 「…あの時は、ありがと」 「いいんだよ。最初はすぐに消えてしまいそうな君を守りたいってだけだったのに…君に会う度にもっと一緒にいたいとか会いたいとか…考えるようになって」 「…うん」 「だから…この前俺の手握ってくれたの嬉しかった」 「…あっそ」 「だからね…このままじゃダメだって、綾瀬くんへの気持ちにケリをつけたんだ」 「うん」 「嫌いにならないでくれて…ありがとう」 「…うん」 「またここに来てくれて、ありがとう」 「…別に」 「俺も、健志が好きだよ」 「…」 「これからも…ずっと一緒にいてくれる…?」 ぎゅっと、今度は俺の方から抱きしめる。 「…当たり前じゃん」 しばらく俺たちはずっとこうしていた。 でも、せっかくいい雰囲気だというのに グゥ〜… 「…あ」 「お前な…」 純の腹の虫が盛大にないた。 「へへ、お腹すいちゃった」 「またさ…」 「ん?」 「オムライス作ってくれよ」 「…ああもちろん、まかせて。とびきり美味しいの作るよ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加