番外編

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番外編

あれから大体1ヶ月。 夏休みも明けてもう9月に入ったが、まだまだ暑さは残っている。 「…」 今日は午前中に講義が終わり早めに純の家に来てベッドでゴロゴロしている。 「…早く帰って、こねーかな…」 静かな部屋の中に俺の声は誰の元にも届かずに溶けていった。 そもそも、こんな時間にきても純は仕事中だ。いるわけがない。 でもなんとなく、来てしまった。 はあ、とため息をつき気晴らしにスマホでナンプレを始める。 「…」 なんか、気が散る。 ナンプレをやめ今度はガチ素因数分解というアプリでひたすら素因数分解をしていく。 「…」 やっぱり、集中できない。 さっきからミスばかりしている。 この悶々とした、俺の集中を邪魔する原因…それはこの部屋の主だ。 昨日の夜から、あいつとのトークの既読がつかないのだ。 ついつい何度もトーク画面を見返してしまう。 仕事中だからこの時間に既読つくはずないのにな。 《明日大学の後お前ん家行くわ》 このメッセージは純に見てもらうこともなくただそこに存在する。 いくら忙しいっていってもスマホ見る時間くらいはあるよな…? 俺じゃない、他の誰かとは連絡してるんだろうか…? 悶々としているうちに、瞼が重たくなってきた。 昼飯を食べたことによって眠気が出てきたのだろう。 そのまま俺はその眠気に従った。 …ん?頬になにか違和感を感じる。 目を開けると 「お、起きた」 そこには純の顔が間近にあった。 「…うわ!」 「おはよう健志」 「あー…おはよ…てかおかえり」 「ん、ただいま。ねーね」 「…なんだよ」 「なんで、泣いてたの?」 「は…?」 俺は泣いた覚えなんてない。さっきまで寝てたのだから。 でも、頬を触ると片方は涙であろうものでびしょ濡れだった。 純の方を見ると、片手にはハンカチを持っていた。 濡れてない方はきっとそのハンカチで拭いてくれていたのだろう。 さっと、起き上がる。 「…ありがと」 「怖い夢でも見た?」 「…いや」 頭を撫でながら聞いてきた。 「子供扱いすんな」 「はは、ごめんごめん」 片方の頬も拭いてくれた。 顔洗っておいでと言われたので洗面所へ。 「…は?」 目の前には、ピンク色の可愛らしいシニヨンの髪飾りをつけた高志…ではなく俺がいた。 いつの間にこんなもの…。 あいつ…! 「似合ってるよ」 「うわあ!やっぱりお前か!!変なもの勝手につけんな!」 きっ、と睨んでやる。 でもそんな俺にお構いなしににっこりと微笑んだままの純。 「かわいいよ」 「か…か…」 かわいい…!? 何言ってんだこいつ! 「かわいくない!!!」 「えーかわいいよ?」 「うるさい!!」 クソが。 バシャバシャと雑に顔を洗う。 結局その日はトークのことを聞くことはできなかった。 ただ次の日。 どうやら純はスマホを駅のチャージする機械のとこに置いてきていたらしい。だから見ることもできなかったと、ごめんねと連絡が来た。 相変わらずおっちょこちょいなんだから。 なあ純。 お前の1番は、俺だよな…? 「…見捨てないで…」 誰もいない俺の部屋で静かに呟き、2度目の涙を流す。 ピンク色のシニヨンの髪飾りが床に転がっている。 「はぁ…」 ガリガリと、抗うつ剤を噛み砕く。 本来とは違う飲み方。 口いっぱいに広がる薬独特の味。 「…おぇ…」 薬が不味いからか、もしくはそれ以外が原因か。 俺はトイレで吐いた。 ごめんなさい。こんな俺でごめんなさい。 だからどうか、どうか 「ずっと俺と一緒にいてくれ…」
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