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「兄さん」
ん…?この声
「兄さん」
高志、だ
「起こしてください…」
今よりも少し幼い、小中学生くらいの高志は、寝転がりながら両手をこちらに向けながら言っている。
懐かしいな。
昔よくこうして、高志は俺に甘えてきていた。
「しょうがないなー」
高志の手を取りひっぱる。
「えへへー、兄さんは優しいですね」
そういいニコッと嬉しそうに笑う。
わかってやってるな、こいつ。
そうやって笑えば、俺がなんでもやってくれるって。
次に高志にメガネをかけてやる。
可愛いからいいんだけどさ。
「兄さん」
「ん?」
「まだこっち来ちゃダメですよ」
さっきまで幼かった高志は、高3のときの高志になった。
「な、何言ってるんだ…?」
「兄さんは…まだそちらに居るべきです。」
そう言うと高志は俺の目の前から消えた。
〜〜〜〜〜〜〜
「…んん」
そっと目を開ける。
俺、生きてる…?
「あ、起きました?」
聞き覚えのある声。
確か…
「目が覚めて、よかった」
公園で声をかけてきた人、か。
上半身を起こす。
体…乾いてる。
そこには一人の男が立っていた。
ごけ茶色の長い髪に細いタレ目。優しそうな顔つきをしている。
そして何より、背が高い。180はあるな。
「あの…ここは」
「ここは俺の部屋です。あなたそこの公園で倒れてて、ここまで運んできたんすよ」
そういい男はニコッと笑いかけた。
「あ、そうそう!早く親に連絡した方がいいんじゃないですか?中学生ですよね?心配してると思いますよ」
…は?
なんだこいつ。
「誰が中学生だ!!」
俺はベッドに立ち上がった。
「え」
「誰がどう見ても大学生だろ!!」
男はポカンとしていた。そして
「…ぶっ!」
その男は吹き出した。
「ぶっははははは!そかそかわるいわるい」
「な、な、何笑ってるんだよ!!」
しばらく男は笑い続けた。
失礼なヤツめ…!
確かに俺は背も低いし童顔だし体つきも貧弱。
年齢より幼く見られるのは慣れているが、やはりムカつく。
でも、いつぶりかな。こんな風に怒るの。
「いやあ笑った笑った!」
まあそれはそれとして、言わなきゃ行けないことは言わないと。
俺はベッドの上に正座した。
「あの」
「おー?」
「助けていただいてありがとうございます…」
冷静に考えれば、見知らぬ人が倒れてても普通素通りするか、救急車よんでさよならだ。おそらくあの時の俺は、救急車を呼んでいたら間に合わなかっただろう。
なのにこの人は、家に入れて看病してくれたんだ。
「ははは、いいんだよそんなこと!それよりも…」
「?」
「名前、なんていうの?」
「…。えと、健志です」
「ふむ、健志ね。俺は」
そういい男は手を差し出し
「根津 純也(ねづ じゅんや)!純って呼んで」
ニカッと笑った。
俺はそれに答えるように差し出された手に自分の手を合わせる。
あったかい…。
「純さん…?」
そう呼ぶと、純さんは不満そう。
社交辞令だったのかな。謝らないと。
「純さんじゃなくて、純」
「え」
「そう呼んでくれない?」
なんなんだろうこの人は。
今日知り合ったばかりなのに、距離が近い。
「あ、そうそう!敬語禁止ね」
「え」
だってこの人、絶対俺より年上。
「歳とか考えなくていいから」
「…じゃあ、純、よろしく」
「うん、こちらこそよろしく、健志」
もう一度俺たちは握手した。
「今夜はもう遅いから泊まっていきな」
時計を見ると、なんともう夜中の12時。終電もうないな…。
まあ死ぬつもりで来たから、終電なんて考えてなかったけど。
「…ありがとう、ございます」
「ほら敬語」
「あ…ごめん」
すると純は、床に布団を敷き始めた。
「健志はそっちで寝て。俺はこっちで寝る」
「…!いやいや悪いだろ…」
「いいから!」
…この人はほんとに、人がよすぎる。
その日は結局、そのまま眠った。
「おやすみ」
「おやすみ」
もうこうやって誰かと言葉を交わすこともないと思ってたのにな。
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