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「ダメだ」
強い一言で、話は終わったとばかりに竜也さんは一人自室へ戻ろうとした。
その背中に
「来年の春、僕は大学生になる、だからこの部屋を出ようと思う」
そう早口で言うと
竜也さんは部屋のドアノブから手を離し驚いた顔で振り返った。
「何か不満があるのか?あったとしても、俺は京太の保護者で後見人として許可できない、そもそも大学もここから十分通える」
整然と言いながらソファーの方へ戻って僕にも座るように勧めた。
「自立をしたいと言う気持ちも分かるが、それならば、ここが窮屈だとしても大学を卒業して就職をしてからでも遅くは無い、今はダメだ」
「何か俺に不満があるのなら言ってくれ」
そう言うと、竜也さんは膝の上で手を組み僕をしっかり見つめてきた。
僕は、顔を上げることが出来ず下を向いたまま
「僕は邪魔じゃないですか?」と言うと
「じゃま?今まで俺がそんなことを言ったか?それとも親戚の誰かが言ってきたのか?」
首を横に振りながら
「僕がいるせいで恋人を部屋に呼べないんですよね、それに結婚とかしたら僕は邪魔だと思うし」
最後の方は、のどが渇いたせいでかすれた声になった。
「なんで恋人がいると思うんだ?」と、答える竜也さんに
「石鹸・・・」
「石鹸?」と、不思議そうに聞き返してくる
「竜也さんが遅くなる日はいつも石鹸の匂いがするから、いくら僕でもなんとなくわかる。」
そういうと
苦虫を噛んだような顔をして「あっ」と声が漏れた。
「たしかに、京太が想像しているようなことをしてる。解りにくいかもしれないが恋人ではないし俺が誰かと結婚をすることはない。」
「だから、京太がそのことについて気に病むことは無いんだ」
とりあえずもう遅いから寝なさい。
そういって僕を立たせて部屋のドアの前まで肩を抱いて連れてきてくれた。
こういうさりげない行動も、あくまでも保護者としての行動なんだと思うと切なくなってお通夜のあの日以来久しぶりに泣いた。
僕が女だったら、恋人でなくてもそういうことをしてくれるだろうか・・・
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