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僕の前には父さんの棺と遺影がある。
僕には母さんの記憶がない、むしろ僕は父さんから生まれてきたんじゃないかと思うくらい父さんとの思い出しかない。
おじいちゃんとおばあちゃんは、すでに天国へ行ってしまっていて、
父さんも行ってしまった。
親戚だという人たちが、父さんの棺の前で僕のことを話している。
「母親に連絡がつかないのかしら?」
「見つかったとしても無理に決まってるでしょ、
子供を産んだらすぐに置いていなくなるような女なんだから」
「諒くんも、バカな女に引っかかって大学を中退したり、
親の保険金も半分もっていかれたそうよ」
「うちも手のかかる子供がいるから京太くんをひきとるのはね」
「うちもそうよ」
そんな言葉が聞こえてくる。
僕は一人で大丈夫です
と言おうとした時
「京太くんだっけ?俺と一緒に住むか?」
突然、頭の上から声がした。
驚いて見上げると父さんくらいの歳の背の高い男の人が立っていた。
さっきまで父さんや母さんの事を言っていたおばさんの一人が
「何を言ってるのたつや!あんた、結婚だってまだなのにバカな事を言ってるんじゃない」
と、恐ろしい剣幕で怒鳴りだした」
その形相の恐ろしさに固まってしまった僕をたつやさんは優しく抱き寄せて
「俺と来るか?」
そう語りかけるたつやさんの瞳が凄く綺麗で
絶対に泣かないと思っていたのに
頷きながら大声で泣いた
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