104人が本棚に入れています
本棚に追加
最悪の出会い
その集いは闇空間ではなく、白昼堂々と行われる。
広さは人数によるが一流ホテルの一室を借りて拉致してきた人間を売る。
今日は暇を持て余した金持ちの男色相手を探すオークションが開かれていた。
披露宴会場のような広間で、今日は未成年の少年が多い集いになっていた。
「それではご自由に鑑賞ください」
主催の工藤望が挨拶を終えると、待ち構えた連中が席を立ってそれぞれ目星をつけていた少年に近づいていく。売り物たちは着慣れないスーツや女裝をさせられ、窓側に立っていたり席に呼ばれて談笑していた。
ここで売れ残ったら始末されるから彼らも必死だった。
もう常連とも言える遠山悟は円形テーブルの自分の席からぐるりと見渡すと、
空席になった席に柄シャツにダメージジーンズ、ブラウンの傷んだ髪の少年が、足を組んで横柄な態度で座っているのを見つけた。
売れなければ殺される状況で、客に媚びる様子もなく、不貞腐れた表情で勝手に人のシャンパングラスに手を伸ばして飲んでいるその姿に遠山は興味を持った。
少年はストライプの入ったブラウンのスーツ姿の遠山に気がつくと、上目遣いで睨むように視線を向けた。
「ここ座っていいか?」
「さあ?誰の席か知らないけど、今はいいんじゃない?」
椅子の背もたれに腕を回して少年はだるそうに答える。
「頑張らないと殺されるぞ」
遠山は隣に座って思わずそんなことを口走ってしまった。
「上等だ。どうせ生きていく気もないし」
少年はそう言って他人のシャンパンを勝手にグラスに注いで飲む。
「お前名前は?」
「人の名前を聞くときは自分の…」
「遠山悟」
少年の言い分を全部聞く前に遠山は名乗る。
その態度がおもしろかったのか、死を目前にしているのになぜか余裕の少年は笑った。
「木内奈々」
少年が名乗る。
「まあ、今さら名前もクソもねえけど」
「なんて呼べばいい?」
「あのさ、買う気ないのに話しかけないでくれる?」
「どうしてそう思う」
テーブルに身を乗り出して話をしてくる男に、少年は人を食ったような嫌な笑みを浮かべた。
「売れ残ってんだもん。なんとなくわかるさ」
「じゃあ安そうだな。特売品だ」
挑発してくる遠山の言葉が気に触ったのか、少年は笑顔を止めた。
「顔もまあまあ可愛いし、安かったら買うよ。で、なんて呼べばいいの?」
「…ナナ」
逃げ道を塞がれた感じで、ナナはしぶしぶ答えた。
遠山は長めの前髪を後ろに梳いて、ふう、とため息をついて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!