104人が本棚に入れています
本棚に追加
ナナの視線が遠山の背後に向けられる。
「こいつを買う気なのか?」
会の主催者である工藤望が遠山に声をかけた。
「値段による」
「安物買いの銭失いだな、あいかわらず」
「どうせすぐ捨てるから安くていい」
振り返ることもなく、ひどく物騒なことをさらりと遠山が言った。さすがにナナの血の気が引く。
工藤、遠山、似たような匂いのする悪い大人の空気感にナナは酔いそうだった。
よく見れば工藤も美少年だった面影があるが輩風がすごく、いかにも悪い大人だがそれが魅力的にも見えた。
遠山はかたぎだと思うが話し方を見るとふたりは知り合いのように感じる。
そして女にモテるだろうルックスは持っていた。
「すぐ捨てないように高値をふっかけるか」
テーブルの下でナナに見えないように指の数で値段交渉をし始めた。
「それでいい」
「え?」
焦る工藤を尻目に遠山が立ち上がった。
「行くぞナナ」
状況がわからないナナは動揺してふたりを交互に見た。工藤の表情を見ると自分は随分高値で売られた感じだった。
「ナナ」
ついてこないナナに遠山が振り返ってもう一度声をかけてくる。
「行け」
工藤は手でうながしてくる。
「…」
わけがわからないままナナは遠山の後に続くが、これは幸運ではなくほんの少し延命しただけで、これからしばらく性奴隷として扱われる事に絶望するしかなかった。
遠山に追いついて重いドアを閉めると、室内から歓声と悲鳴が聞こえた。
少しだけ生き延びることが出来た者の喜びの声と、処分される者の断末魔だった。
「俺…」
「いくらで買われたかって?」
ナナは無言で頷いた。
「今死んでも後悔しない程度の額」
逃げるなら今しかない。
ナナはすぐ横にあった大きな花瓶を遠山に投げつけた。
「…!」
破裂音と同時に地を蹴ってナナは拳を上げて殴りかかった。
その腕に痛みが走る。
「元気だなガキ」
遠山に掴まれた腕を反転させられてあっさり床に叩きつけられ、足で押さえつけられた。
「いたっ…、痛い!腕折れる!」
「ああ、スーツが台無しだ。腕だけじゃ足らないぞ」
ナナを踏みつけていた足をどけて、花瓶の破片が飛び散る床から腕を引っぱり上げて目の前に立たせる。
「喧嘩売るなら相手をよく見るんだな」
「い…命がかかってんだ余裕なんかあるか!」
「だったら最初から捕まらないことだ」
身も蓋もない正論を言われて、ナナは黙るしかなかった。
最初のコメントを投稿しよう!