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連れてこられたのは都心から離れた深淵の森だった。
日の沈んだ夕暮れに、庭木に隠れているが存在感のある日本家屋が見える。
ここが遠山の家であり、ナナの牢獄であった。
まわりに家はないし、ここで何が行われても誰も気が付かないだろう。
大きな門をくぐり、無言でクルマから降りて無表情で遠山に続く。
「週3日程度家政婦が来る。それ以外は俺しかいない」
主人の帰りを無言の空間が迎える。
からからと引き戸を開けて玄関に入り、ひととおり家の中を案内してもらって好きな部屋を使えと言われる。
「脱走しやすい部屋でもいいの?」
「どの部屋でもいい」
「俺が逃げちゃったら?」
遠山は無言で更地になっている庭を指差した。
「捕まえて土の中だ」
ナナの動きが止まった。
安く買い漁って飽きたら殺して埋める。そしてまた新しい人間を買ってくる。
自分はいつまで生きていられるのか。
「余計な事は考えないで、早く部屋決めて風呂入れ。今から家政婦呼んで飯作ってもらうから」
ナナは食欲など全然ないが、遠山はこれが日常。
とりあえず言われたとおり風呂に入ろうと思い、その近くの部屋を自室に選んで少ない荷物を置いた。
しばらく遠山に弄ばれて、最期はこの家の庭が俺の墓場か。
絶望的な状況で、遠山だけが上機嫌で家政婦に電話をしている声が聞こえた。
今ここで死ねないかとまわりを見回したが、致命傷を与えられるほどのものはない。
シャワーを浴びて、なりゆきにまかせて人生を終わろうと考えていた時、ドアが開いて遠山が裸であらわれた。
「時間ないから一緒にシャワー浴び…、どうした?」
ナナの悲鳴が浴室に響いた。
「やだ!殺さないで…っ、許して…!」
「え‥なに…ナナ?」
「死にたくない…、死にた…くな‥い……」
がくがく痙攣する体を遠山に抱きかかえられて「ナナ落ち着いて」と何度も言われていた気がする。
シャワーの音が妙に大きく聞こえていた。
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