悲鳴

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夜の行為とは違う痛みでナナは悲鳴を上げていた。 医者が呼ばれて部屋で診察される。想像以上に直腸が裂けていたらしくあの遠山が医師に怒られてしおらしくしている。 顔の切り傷も消毒液がしみる。肛門はさらに激痛が走ってナナは布団を握りしめて耐えていた。 「すぐ使い物にならなくなって処理に手を貸すのはごめんですよ」 老年の医師が嫌な事を言う。 何もナナの前で言わなくてもいいのに。 「終わったら帰れ闇医者」 遠山も気分を害したのか、医者の弱みを口に出して追い出しにかかった。 それでも処方した薬の説明、傷の対処法などをくどくど説明して帰っていった。 「もう少し頑丈だと思っていたが」 ナナを見下ろしている遠山を力なく見つめる。 「気に入らなかったんなら…今すぐ殺せよ。どうせ使えないんだろう?」 「誰が使えないと言った?」 絶句するナナを見て遠山がうれしそうな笑顔を浮かべる。 「傷があったほうが痛みで泣き叫ぶお前を見ることができる。楽しみで仕方ない」 「遠山さん…、あんたおかしい。狂ってる」 「普通のヤツがあんなオークション行くか?お前も馬鹿だな」 「泣いてる人間見ると欲情するの?」 「悪いか」 遠山は遠くを見て何かを思い出しているようだったが、すぐにやめて元の自分に戻った。 「だったら早く俺を殺せよ!そしてあの土の中に埋めろ!!」 傷の痛みに耐えて顔を歪めている今のナナには興味がなさそうで、一瞥しただけで返答はない。 おしゃべりに飽きたのか遠山は部屋を出ていく。 遠くのほうでさっきの女性と話しているのが聞こえるが、内容まではわからなかった。 なぜこんな事になったのか。 わからない。いきなり理由もなく拉致されて、遠山に買われただけ。 それ以上でもそれ以下でもなかった。
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