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※  白い靄に包まれる季節も終わった。変わりに空は白い雲が常駐し、そこから真っ白な雪を降らせた。木々は擦りあう葉もなく、枝の僅かな堆積に積もった雪が落ちる音がした。  起こした体は震えあがる程に寒い。この土地では一日中暖房をつけていなければ生命にも関わる。暖炉を消した後は部分的な床暖房と、備え付けのヒーターを回していた。それでも、今日の気温は体が震えた。  体の震えが振動となって、真横の黒い頭が動いた。身を縮こませるように、背を丸めた。剥き出しの肩は見ているだけでも冷える。そっと、毛布で隠した。  狭いベッドは買い替える予定もまだなく、未だ二人で身を寄せ合って眠った。互いに少しでも違えればどちらかが落ちてしまいそうになった。それをさせないように互いに身を寄せ合って、寄り添った。それは心も、体も。  屋根から落ちた雪の音で、黒い髪の隙間から寝ぼけた目がこちらを見た。既に起きた体に、黒い髪が擦り寄る。まるでまだ眠っていようと誘うように。  動く体からかけたばかりの毛布が落ちる。その背中にはまだ、傷跡が遺ったままだった。  赤みは消えているものの、未だはっきりと遺る傷跡が、自分自身を彼に酷く依存させている。その傷跡を見て、苦しみ生きていることに虚しくは思えても、歪に互いを支えている自信が持てた。この虚しさを持って生きていることを、受け入れていけるような。  互いの歪さは重なり合うことでどうにか形になれていた。お互いが相手でなければ、けしてまともな形にはなれもしない。これを言葉に表す関係にすると少し難しい。それが始まりであったとしても後付けになるだけのような気もしていた。  けれど、誰よりも必要だった。彼以外では、埋まりそうもなかった。欠けた自分のあらゆるものを、彼がなにより初めて埋め尽くした。  彼を失った明日を過ごす気にはなれない程に。  緑と青ばかりの季節が終わって、真っ白な世界に変わった。あれから七ヶ月経った。あの日、もう一度やり直した、あの日から。  なにをどうしてもこうなった、そう信じるだけでこの世界が成り立った。それが今では互いの望みであると、はっきりと言えた。  新たに始まった二人だけの世界。静かな土地に、静かな家。そこに二人だけで、閉じこもって、二人だけの世界を、ずっと。 「今日のご飯はなにがいい?」 「いつもの玉子焼き」 20200921
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