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仕事が終わり、居酒屋が並ぶ通りへ向かった。今日はどこに行こうか。
まずは紺の暖簾が目に入る。あそこはダメだ。常連客に愚痴った挙げ句、喧嘩になりかけたし。
その暖簾を通り過ぎ、今度は『やきとり』と書かれた赤い大きな提灯を発見する。ここもダメだ。店員に絡みまくって店の全員に目の敵にされているんだった。
渋々そこも過ぎると、足に何かが当たる。下を見れば、チューハイの缶だった。しかも、中身が入っていたのか、靴の先端が濡れている。こんなところに飲みかけ置きやがって。俺がその缶を蹴飛ばすと、音を立て転がり路地裏へと消えていった。
ふと、その路地裏を覗いてみると、そこには煉瓦造りに重厚な黒い扉の建物があった。看板には「BAR」と書かれている。
こんなところにバーなんてあったか・・・・・・酒が飲めればどこでもいい。失態を忘却したい気持ちから初めての店へ入っていく。
店内は薄暗くジャズが流れていた。数少ない明かりの一つはマスターの手元を照らしている。肝心のマスターはひげを蓄え、持っていたグラスを丁寧に拭いていた。
「あの、実はバーに来るの初めてでどう注文したらいいか分からなくて。『今日は嫌なことがあったから酔いたい気分』なんていったら合うもの出してもらえるんですか?」
寡黙なマスターは返答することなく、酒の並んだ棚の方へ向き準備を始める。しばらくして、目の前にライムが入ったグラスを渡された。
「・・・・・・ジントニックでございます」
流れるジャズに合う低音ボイスで伝える。名前は聞いたことあるが、酔えればいいからな。グラスを呷ると、酒が内臓に染み渡っていった。しかし、身体の表面は温かくなっていく。俺は、もう一杯とマスターにグラスを差し出した。
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