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俺の周りには、苛立たせる人間しかいなかった。
「今日、取引先に納品するはずのものが届いてない。一体どういうことだ?」
問いかけると、真っ先に下酉(しもどり)が言い訳を始める。どうやら、本来よりも少し遅れて発注をかけ、今日までに間に合うかは五分五分だったらしい。
「発注先が悪いみたいな言い訳をするんじゃない。じゃあ、発注が遅れた理由は?」
すると、亥岡(いおか)がすねたように言う。発注より先に頼んでいた仕事が終わっておらず、別の人にお願いした、とのこと。腕を組み、2つも仕事を押しつけてきたくせにとばかりに睨み付ける。
「それが話を聞く態度か、今すぐやめろ。それでお願いされたっていう人間が」
俺が言い切る前に相馬(そうま)がペコペコと謝り出す。だが、すみませんすみませんの一点張りだ。壊れた機械みたいに繰り返す姿にさらに苛立ちが募った。
「何回謝られても、状況は変わんないんだよ」
「戌養(いぬかい)さん、そのくらいにして。みんな反省はしてるだろうし」
同僚の羊田(ようだ)が止めに入る。後ろにいる相馬はよく見ると、涙ぐんでいた。そうやってると、いつか舐められるぞ。そう言いたかったが、話しているうちに社内からの注目を集めていた。
「・・・・・・もういい。タバコ吸ってくる」
俺がケースを取り出しながら廊下に出ると、さっそく社内では陰口の言い合いが始まる。
「なんだよ、方法は教えたからって、いきなり押しつけやがって」
「いつも苛ついてるから、こっちも言いにくいんだけど」
「まぁまぁ、方法は厳しいけど、戌養さんは君たちに成長してほしいと思ってることには変わりないからさ。それに僕がフォローに回るし」
なんで俺が悪いみたいになってるんだよ。俺はタバコのケースを潰し、自動販売機の隣にあるゴミ箱を蹴飛ばした。ゴミ箱は倒れ、中から空き缶やペットボトルが飛び出す。そこまで本気で蹴ってないのに。さらに拾おうとすると、空き缶は妙にべたついていた。僅かに残っていたジュースが零れたんだろう。
「洗ってから捨てろよ」
俺は思わず自動販売機を殴る。当然びくともせず、拳にダメージが入っただけだった。
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