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何をやってもうまくいかなかった。1ヶ月前に左の乳房を全摘出した。医者は手術は「成功した」と言うが、左の腕は、右の1.5倍くらいに浮腫んでいる。「リンパ液の流れが悪いからリハビリを続けましょう」と、私より20歳は若いであろう女医に言われた。動く度に花の匂いのするその女医の背中に向かって「はい」と答えながら、女であることを捨てる覚悟で受けた手術さえも、上手くいかなかったことを呪った。
帰り道のバス停の近くの花屋で、半額の札の横にカサブランカが目に止まった。白く香りの強いその花は、半額の札が似合わず、凛としていた。店員が「お買い得ですよ。一輪花が落ちたので、バランス悪いから安くした。」と聞きもしないのに話しかけてきた。買うことを告げると、サービスだと、ピンクのリボンまでつけてくれた。ふと明日は自身の50歳の誕生日だった。と思い出した。一輪花が落ちても、凛としている白い花を洗面台に飾ろう。そしてバランスの悪い私の私の上半身のリハビリをまた始めよう。私が私らしくあるように。
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