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ベージュの靴
冷たい雨の朝だった。夜中に降りだした雨は霙になり、アスファルトの上に融けたシャーベットを残していた。避けて歩いていたはずだったがベージュのスヌードのブーツに滲みができた。やはり、黒色にしておけば良かった。 先週の休みに雅人の勧めて買った ものだった。汚れが目立つ色だから、ふだんは絶対に選ばないのだが、雅人の機嫌が悪くなると面倒だから、と選んだのだ。爪先も少し窮屈で、今夜雅人と会う予定を入れていなければ履いて来なかっただろう。師走の乾いた冷たい風を頬に感じながら、駅まで急いだ。
A駅の北口を出ると、仁美の仕事場である美容外科クリニックの看板が、すぐに目に飛び込んでくる、5階だての医療モールだった。美容クリニックは、最上階にあり、大きな窓からはスカイツリーが見える。仁美は急いでコートと、ベージュの靴を脱ぎ黒のスリッポンに履き替えた。
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