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初恋。とも言いきれない▪▪▪
あれが初恋だと思うのだが、ときめく想い出より、心がヒヤッとするような場面ばかりが思い出される。私は昔から空気を読むことが苦手だった。と、言うよりそんなときに、あえて空気を変える一言を放っていた気がする。だから、彼の顔は何時だって眉があがったムッとした表情だ。大好きなのに▪▪▪。中学二年のころには、嫉妬に苦しんだ。
私が大好きな彼は、誰でもが好きになるアイドルタイプでも、ひょうきんなお笑い芸人タイプでも無かったが、何故か、彼は良くモテた。常に彼の彼女だ、という存在が数珠繋ぎにいた。そのサイクルは数ヶ月単位で、対象の名前が変わった。その対象の名前を聴き、セーラー服姿を見るたびにイライラし、悪口を言った。真実かどうかは、意味をなさず、ただ彼の横に居る甘ったるい存在が許せなかっただけだ。あの頃の私は、意地悪で自意識過剰で嫌な田舎者だ。
11月の乾いた北風が吹く夕方、サッカー部の部室の前に、練習着の彼が居た。夕日に照らされた逆光のなかに、シルエットが浮かび、背番号の9が確認出来た。「先輩」とオルゴールのような声が背後から聴こえ、その声は、私を追い越し、彼は振り向いた。
「黒木先輩、好きです。付き合ってください。」オルゴールの声の後、「別にいいけど」確かにそう言った。
そう、1週間前に「死んでもいいって思うくらい好き」と、泣きながら告白した私に返した時と、同じ「別にいいけど」と。
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