春 

2/11
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
早瀬雪国(はやせゆきくに)の目に映る世界は、全部白黒だった。 1年以上前、親友の羽村虎太郎(はむらこたろう)と絶縁し、2月の終わり、もう一人の親友・上沢海月(かみさわみつき)が死んだ。 雪国は、欠けがえのない存在を失った。それは彼にとって常人では計り知れないほどの、喪失感。 海月は確かに、自分の目の前で死んだ。 が、世間的には彼女は行方不明扱いとなった。 実家に「しばらく家を出ます。戻るので心配しないでください」という直筆の手紙を残していたからだ。 飛び降りた現場からも、海月の死体はどこにもなかった。彼女は忽然と消えた、ということにされたのだ。 雪国はどうしても、納得がいかなかった。何かが引っかかった。 海月がいなくなってからというものの、心当たりの場所は全て探し尽くした。 だが、彼女の痕跡は見つからず、なんの手がかりもないまま気がつけば3年生になっていた。 始業式の翌日。 同居人に今日くらいは行きなさい、と諭されてしぶしぶ学校には来たが、全く気乗りしなかった。 上沢海月を取り残したまま、世界が回っていくのが、進んでいくのが、忌々しかった。 ノロノロと道草をしながら来たので、とっくに授業は始まっていて、玄関はシーン、と静まりかえっている。 ガタッと下駄箱を開けると、黒い花と手紙が入っていた。 「(・・・なんだ?)」 手紙を開くと、無機質な筆文字でこう書かれていた。 『美しき花嫁。運命の花嫁。導きのままに、今日の18時、弥栄神社へと来るように。』 「(・・・・・・なんだこれ。ラブレター、なわけないよな・・・)」 普通の人間ならば、気味が悪い、と放っておくところだが、雪国には、この不気味な手紙を無視できない事情があった。 「(運命・・・)」 『あなたと虎太郎に出会えたのが私の幸せ、そして運命』 あの時の海月の言葉が、頭をよぎる。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!