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早瀬雪国の目に映る世界は、全部白黒だった。
1年以上前、親友の羽村虎太郎と絶縁し、2月の終わり、もう一人の親友・上沢海月が死んだ。
雪国は、欠けがえのない存在を失った。それは彼にとって常人では計り知れないほどの、喪失感。
海月は確かに、自分の目の前で死んだ。
が、世間的には彼女は行方不明扱いとなった。
実家に「しばらく家を出ます。戻るので心配しないでください」という直筆の手紙を残していたからだ。
飛び降りた現場からも、海月の死体はどこにもなかった。彼女は忽然と消えた、ということにされたのだ。
雪国はどうしても、納得がいかなかった。何かが引っかかった。
海月がいなくなってからというものの、心当たりの場所は全て探し尽くした。
だが、彼女の痕跡は見つからず、なんの手がかりもないまま気がつけば3年生になっていた。
始業式の翌日。
同居人に今日くらいは行きなさい、と諭されてしぶしぶ学校には来たが、全く気乗りしなかった。
上沢海月を取り残したまま、世界が回っていくのが、進んでいくのが、忌々しかった。
ノロノロと道草をしながら来たので、とっくに授業は始まっていて、玄関はシーン、と静まりかえっている。
ガタッと下駄箱を開けると、黒い花と手紙が入っていた。
「(・・・なんだ?)」
手紙を開くと、無機質な筆文字でこう書かれていた。
『美しき花嫁。運命の花嫁。導きのままに、今日の18時、弥栄神社へと来るように。』
「(・・・・・・なんだこれ。ラブレター、なわけないよな・・・)」
普通の人間ならば、気味が悪い、と放っておくところだが、雪国には、この不気味な手紙を無視できない事情があった。
「(運命・・・)」
『あなたと虎太郎に出会えたのが私の幸せ、そして運命』
あの時の海月の言葉が、頭をよぎる。
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