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17時半。
雪国は、弥栄神社へと続く長い階段を見上げていた。
この時間は昼の世界が夜の世界へと変わる、夕闇の狭間。
4月に入ってもまだ日は短く、辺りはすっかり薄暗くなっていた。
弥栄神社はこの階段を上った八十美山の途中にあり、地元の人間なら誰でも知っている馴染みの神社である。
元々この辺りは人通りも少なく、周囲には人の気配がない。
鬱蒼とした木々に囲まれた階段の先は、ぽっかり開いた暗闇が広がり、不気味さが漂う。
手紙と一緒に入っていた花がなんなのか調べたところ、「黒百合」という花のようだった。
花言葉は「呪い」「恋」。
言い伝えによれば、
『好きな人への想いを込めたクロユリをその人の近くにそっと置き、相手がそのクロユリを手にすれば、いつの日か二人は結ばれる』
というものがあるようだった。
「(・・・やっぱ変な予感がする。帰るか・・・)」
自転車に手をかけようとしたとき、向こうの方から駆け寄ってくる人物がいた。
「おーい!おーい!」
息を切らしながら駆け寄ってくる人物には見覚えがあった。
「・・・」
「よー早瀬!久しぶり!」
クラスメイトの、日南周二だ。
「えっ。俺のこと、まさか忘れてないよな?」
「・・・日南だろ」
「おお、よかったー!忘れられてたらどうしようかと焦ったわ。元気だったか?」
「・・・まあ」
日南周二はクラスの中では陽気なムードメーカーという感じで、誰とでもそつなく接している、という印象だ。
二年生の時から同じクラスだが、その頃からサボりがちになりあまりクラスメイトと関わっていないので、何度か話したことがある程度だった。
周二は辺りをキョロキョロ見回してから、ささっと近づいてきた。
「・・・なあ、早瀬ももしかして、呼び出されたのか?」
雪国は思わずハッとして周二を見る。
「あ!やっぱそうか~!だよなー、こんな時間にここにいるのなんて、あの手紙に呼び出された以外ないよな」
「日南もあの手紙と花、あったのか?」
「花?ああ、あれね・・・」
「一体なんなんだこれ?薄気味悪ぃ・・・何かのイタズラか?」
「いやあ、なんだって、あれしかないだろ」
「あれ?」
日南はきょとん、とした顔で雪国の顔を見る。
「『乙嫁探し』だよ」
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