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互いの姿を認めた二人は立ち尽くし、しばし絶句していたが、やがて雪国は強い憎しみを露わにした。
「・・・お前、俺の前に二度と現れるなって言ったよな?」
虎太郎は何かを言いかけたが、言葉に迷い考えあぐねているようだった。
「・・・もういい。やってられるかよ。こんな茶番ゴメンだ。
俺は関係ねぇから、勝手にそっちでやってろよ」
雪国は階段の方へずかずか歩き、虎太郎の横を通りすぎる。
「待ってくれ、雪国!」
何度呼びかけても無視して駆け下りる雪国に、虎太郎は必死に追いすがる。
「雪国!待てって!頼む、俺の話を聞いてくれ!」
「・・・うるせっえな!お前と話すことなんて何もねえ!」
ぴたっと足を止めた雪国は、振り向きもせずに怒鳴る。
表情を見なくても虎太郎にはわかった。雪国の全身から、激しい怒りのオーラが出ているのが。普通の人間ならまず近寄れない。強く握りしめた左拳は、小さく震えている。
それでも虎太郎はその手をとろうとしたが、雪国は乱暴に払いのけた。
「気安く触るな!お前の顔も見たくねえんだよッ・・・!」
振り返りざま、虎太郎のひどく傷ついた表情が、雪国の目に映る。
(ーーーお前が悪い癖に。お前から捨てたくせに。なのに、なんでそんな傷ついた顔をしてんだよ・・・)
「・・・ごめん。全部、俺が悪いんだ。雪国が乙嫁に選ばれたのは、俺のせいなんだ。
俺が・・・お前のこと忘れられなかったから」
雪国ははっと、顔を上げる。
「俺があの時別れようって言ったのは、これをなんとか避けたかったからなんだ。
・・・高校1年の秋、自分が乙嫁探しの甲婿だと知らされた。
乙嫁は、甲婿、つまり俺が好きになった相手が選ばれるんだよ・・・」
「は・・・?!」
「それを知って、俺はなんて馬鹿なことをしていたんだとショックを受けた。
雪国のこと幸せにしたくて一緒にいたのに、俺がしていたことは全部真逆だった。むしろ、不幸に巻き込んでいたんだ・・・
だから無理矢理突き放して、忘れようと思った。
最低な考えだけど、雪国以外の人だったら誰でもいいと思った。それで、女の子と付き合ってみたりもしたけど・・・」
目の前の虎太郎は今にも泣きだしそうな顔で、言葉を振り絞る。
「でも、やっぱりだめだった。雪国のこと、ずっと忘れられなかった。
あんな一方的に傷つけて、悲しませただろうな、怒らせただろうな、嫌われただろうな・・・って、いつもいつも後悔してた。
ずっと会いたかった。会ってごめん、って謝りたかった。
・・・でも、だからって雪国の顔見たら、また好きって感情が溢れてしまいそうで、怖かった・・・
結局、何もできないままこんなことになって・・・本当、ごめん・・・ごめんな・・・」
雪国は頭がクラクラした。目の奥が熱い。
何を言われているのか、ぼんやりと頭では理解できたが、感情がもうぐちゃぐちゃだった。
立っているのもしんどい、何かにつかまっていないと倒れそうだ。
心臓の鼓動が嫌に早い。呼吸がしづらい。
「・・・んなこと、急に言われても・・・わかんねえよ・・・そんな・・・」
その時、
「とぉりゃ!」
木の上から声がしたかと思うと、雪国と虎太郎の側に、ふわっ、と一人の少女が降り立つ。
二人は少女の姿を見て、思わず同時に声を上げる。
「「海月ッ・・・!!!?」」
そう、木から降ってきた少女は、いなくなったはずの彼らの親友・『上沢海月』だった。
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