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夜明け前の人のいない時間帯で、自分しかいないと思っていた。
びっくりしてはいたのだが、半分酔って、半分眠たくなっていたので、大儀そうな声しか出なかった。
声がしたほうに首をひねる。
斜め後ろのあたりに、オン・ザ・眉毛でぱっつん前髪の女の子が立っていた。
大きな襟のついた2つボタンのジャケットシャツに、プリーツの入ったボックススカート。ソックスは白で、動きやすそうな踵の低い靴を履いている。
(中学生か?こんな時間にうろついているなんてどういう子だよ)
そう思ったものの、遊びまわっているというような派手な雰囲気は一切ない子だった。
場違いなほど健全で明るい目をしている。
彼女がにっこりと笑った。
「ただの酔っ払いさん?ならよかったー。でも危ないですよー。酔っぱらってこんなちっさな川に落ちて大けがとか、ただの笑い者ですよー」
「・・・落ちる気はない。けど、落ちたい気分ではある」
「あらやだ、じゃあ声かけてみてよかった、よかった」
「・・・お前、テンション高くないか?」
頭の片隅で、俺はなぜこの子とふつうに会話し始めているのだろうか、と思ったのだが、酔いと投げやりな気持ちのほうが強く、ちゃんと考えるのを止めていた。
夢を見てるのかもしれない、とも思っていた。
彼女は、両腕を左右に広げると、バレリーナのように片足を軸にくるりと一回転した。
「夜明けの直前だからかな。ああ、1日が始まるんだなー、太陽が昇るなー、明るくなるなー、ワクワクするなー、みたいな?」
「俺にとっては、その1日の始まりが今はしんどい」
「ふーん」
彼女は体が傾くくらい首を傾げた。
「事情はわかんないけどー、有限な人生の中の1日なんだし、どんな形であれ、大切にするほうがいいと思うよー」
「子どもがわかったようなことを言うなー」
「んーでも、私、いつ死ぬかわかんないからなー」
「・・・病気、とかか?」
彼女は上を見て、んー、と悩まし気に目を閉じた。
無神経なことを言ってしまったのかと、軽く酔いがさめた。
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