野良、始めました

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「マヤー、もう寝る時間だよ」  そう言って、そいつは俺を後ろから抱き上げる。それはそいつにとっての日課で、捕まるとふかふかした寝床へ連れていかれるのだ。  そいつより年を取ったもう一匹の人間のメスが言う。 「あんた、ほんとにマヤがいないと眠れないのね」  逆らっても無駄なので、俺はいつもなされるがまま。そして押しつぶされないように気を付けながら、そいつが眠った頃を見計らって床下に入り込み眠るのだ。毎日毎日、代わり映えのしない日々だった。  そんなある日、そいつが子猫を連れて帰ってきた。まだ生まれたばかりの赤ん坊だった。俺の鼻先に突きつけながら言った。 「ほら、マヤ、新しい家族だよ。お隣の家で生まれた子でね、ロシアンブルーっていう種類。一匹もらってきちゃった。あたし、ずっと憧れてたんだー」  相変わらずこいつらの言葉はよく分からなかったが、その物言いに不穏な響きを感じた。思わずその赤ん坊を叩こうとしたら、押さえつけられて怒鳴りつけられた。  最初のうちは、それまでと変わらない日々が続いた。しかし、子猫の目が開き、ふわふわした毛が生えそろってきた頃から、何かが狂い始めた。
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