野良、始めました

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 まず、毎晩の「マヤー」が無くなった。いつの間にか、ふかふかの寝床に連れていかれるのは俺でなくてあの子猫になっていた。俺の時には聞いたことの無いような甘ったるい声で「モカー」なんて言いながら、子猫を抱き上げる。  その瞬間、子猫はいつも勝ち誇ったような顔で俺をじっと見つめるのだ。解放された、と思うと同時に、それがなぜだか不愉快で仕方なかった。  やつの食事がミルクからカリカリのをふやかしたものに代わり、さらに俺と同じものを食べるようになり始めてから、更に不愉快なことになった。  自分の食事があるのに、しょっちゅう俺の皿のものを盗み食いするのだ。 「俺のだぞ」  と注意すると、大袈裟に怯えたような鳴き声を上げながら人間にすり寄る。すると、なぜか俺が叱られる。  トイレだって、俺はいつも我慢して同じ所で用を足しているのに、あいつは好きな場所にしても怒られない。質が悪いのは、俺のトイレを勝手に使って汚し散らした挙げ句、それを俺のせいにする。  最初の頃は抗議していたが、この度に甘え声で人間に泣きついて、俺がぶたれるだけ。そのうち何も言う気が起きなくなった。  やがて、明らさまに、俺の食事とやつの食事の中身が変わっていった。やつの方がずっと美味しそうだった。  俺は出されたものを文句を言わずに食べていたけど、やつは気に入らないものは断固として食べようとしなかったからだ。俺が子猫の頃に、同じことをしても何も変わらなかったのに。  俺はだんだん気難しくなって、人間たちに触られただけでもイライラするようになっていった。何かがおかしい、ということに気づき始めた時には、もう手遅れだった。
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